私たちは、近所の使わなくなった小さな空港で花火をすることにした。
「火、つけるぞ。」
「うん。」
360度見渡せば、周りには誰もいなくて、
ただただ、火と火がぶつかり合う音が
終わった空港に鳴り響いていた。
彼は黙り込んだまま、小さな光を見つめる。
私の目には、何かを考えているようにも見えた。
「シューは、好きな人いるのか?」
初めて聞かれた。いつも自分ばっかだったから。
でも私の好きな人は、今私の目の前にいる人だなんて、言えるわけないよ。
「いないよ。」
彼は、安心したような表情を見せた。
さっきよりも、目が優しかった。
脈ナシ、か。
「俺さ、恋出来なくても、ずっとシューといたい。」
私に恋すればいいのに。
「私も、レンといたいよ。」
「ありがとう。」
そして火が消えて、バケツにつける。
水面に映る私の顔は、
少なくとも、笑ってはいなかった。
またひとつ、火をつける。
「シューは、なんの天気が一番好き?」
「うーん、晴れかな。」
「そうか。雨は嫌いか?」
「まぁ、濡れるの嫌だし。」
「俺はな、雨好きなんだ。」
彼が好きなものを語る時、
彼の瞳は必ず揺れる。
「どうして?」
「雨って、青色、水色、白色、どんな色でも表すことが出来ないんだ。」
「透明ってこと?」
「それとは少し違うな。」
私は彼に、いつもみたいに目で訴えかける。
彼だけは、私の言葉を目で把握してくれる。
心を読まれているかのように。
「雨はな、世界の色をしているんだ。」
「世界?」
「そう、世界。この世界のどこかに、
幸せに満ちている人、悲しみに暮れている人、
助けを求めている人、
消えてしまいたいと思っている人、
色々な人がいる。
雨にはな、その人々全てが、逆さに映り込むんだ。」
「それが、好きなの?」
「ああ。空高くから降ってくる一滴一滴が、
上の方では世界を映して、
真ん中あたりでは国々の争いを映して、
地面にたどり着く直前、瞬きもする間もない
一瞬に僕らが映る。
一滴はあっという間に見えて、
長い長い旅をしているんだよ。
素敵だと思わないか?」
「まぁ、言われてみれば確かに。」
「恋も似てるよな。」
恋って単語を彼から聞くだけで、
少し心の鼓動がはやくなった。
「恋もな、相手のことをいくら
一途に思い続けたって、
相手が気づかなければ雨みたいなものだよな。
急に告白されても、気持ち悪いんだろうな。」
「それはないよ。」
「え?」
「たしかに雨みたいなものかもしれないけど、
気持ち悪いは、おかしい。
恋はきっと、雨は雨でも
天気雨に似ていると思うな。
晴れているのに、雨が降る。
そこには、成功した恋、失敗した恋のふたつと
同じ何かを感じるな。」
「そうか。たしかに、そうかもな。」
また、灯火が消える。
「レンはさ、きっと、…」
「ん?」
「いや、なんでもない。
てか、花火終わっちゃったね。」
「あ、ほんとだw
雨の話してたら終わっちゃったな。
もうこんな時間だし、帰ろう。」
「うん。」
私たちは、誰もいない空港を後にした。