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第三章:崩壊のはじまり
「…どうして、お前があいつと笑ってた?」
夕方、寮の自室。カーテンは閉じられてて、光がどこか鈍い。
ベッドの端に座る俺と、立ったままの九条先輩。
この距離が、妙に苦しい。
「“あいつ”って、…佐原先輩のことですか? たまたま廊下で会っただけですよ」
「…“たまたま”って言えば、俺が納得すると思ってる?」
低く、でも感情を押し殺した声。
本当に怖いときって、怒鳴られないんだって、この時知った。
「俺、何か…したんですか?」
素直なフリ。心ではわかってる。
これはもう“恋”とかじゃない。
ただの支配。俺だけを見てないと気がすまない、その狂気の始まり。
「なあ、一ノ瀬」
先輩が、俺の前にしゃがみ込んだ。目線が合う。
その瞳の奥に、何か黒いものが蠢いていた。
「お前がどんな嘘をついても、俺はお前のこと、信じてるよ」
「信じてるけど――それでも、壊したくなる時がある」
手が俺の首元に触れる。優しいのに、冷たかった。
「誰にも触らせるなよ。俺のものに、指一本でも触れさせるな」
――言葉のひとつひとつが、首輪みたいに絡みつく。
苦しいのに、嫌じゃなかった。
怖いのに、逃げられなかった。
その夜から、俺のスマホにはロックが増えた。
通話履歴もメッセージも、ひとつ残らずチェックされてる。
でも俺は、何も言わなかった。言えなかった。
だってもう、
俺も――この人に、依存し始めてたから。