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夢主の設定
名前:ニーナ・シンプソン
容姿:黒髪セミロング/琥珀色の瞳
調査兵団幹部と仲がいい。
エルヴィンに片思い中。
リヴァイは夢主のことが好き。
原作沿いです。
「勇気があれば」の続編です。
しんどい内容なので苦手な方はご注意ください。
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大切な人
2日後にウォール・マリア奪還作戦を控えた調査兵団。
士気が上がる仲間たち。その反対に浮かない顔をしている兵士が1人。
「ニーナ。どうしたの?」
『ハンジ……』
共に死線をくぐり抜けてきた仲間。
いつ死ぬかも分からないのが調査兵団。
それを承知で入団した。
王に、民に、心臓を捧げる為に。
いつだって命がけて戦ってきた。
仲間の屍を踏み越えて。
ここまで生き抜いてこられたのは、きっと死んだ仲間たちよりも少しばかり命に縁があったからだろう。
エルヴィンも、ハンジも、リヴァイも、そして自分自身も。
でも今回ばかりは、嫌な予感が頭にこびりついて離れない。
『…明後日、ウォール・マリアを奪還する為に、一体どのくらいの仲間が命を落としてしまうんだろう…って考えちゃった』
大きな琥珀色の瞳が陰りを見せる。
「…そうだね。きっと誰一人犠牲を出さずに、とはいかないだろうね……」
『私たちは…一体どれだけ、大事な仲間を失えば人類の勝利に近づけるのかな。これを覚悟で調査兵団に入ったけど…、叶うならもう誰も死なせたくない……』
そう言う彼女の視線の先には、先日巨人に右腕を食い千切られた団長の姿。
それでもいつも通りの、凛々しく頼もしい彼の姿。
『死ぬかもしれないなら、私もみんなと一緒にウォール・マリア奪還作戦に参加したい…』
「だめだよ。ニーナはヒストリア女王の護衛っていう大事な役目があるんだから。それは誰にも代わりができないよ」
『そうだけど…』
ニーナの気持ちも分かるよ。
ずっと想いを寄せていた人が死ぬかもしれない。
万が一のその時は、自分も傍にいたいと願う気持ち。
でも彼女には私たちとは違う大事な役目がある。
女王の護衛は、調査兵団の中でも腕利きの、リヴァイや今は亡きミケに次ぐ実力を持つ彼女にしか任せられないんだ。
ハンジは何も言わずニーナの肩を抱いた。
その晩。
ウォール・マリア奪還の前祝いと称して宴会が開かれた。
民間人に悟られぬよう、騒ぎすぎるなと釘を刺されたにも関わらず大盛り上がりの団員たち。
早めにその場を後にし、自分の部屋で今一度作戦を煮詰めようと考えたエルヴィン。
ついに、地下室に行ける。
父との夢に手が届く、その瞬間がすぐそこに…。
コンコンコン
誰かがドアをノックする。
誰だ?リヴァイか?ハンジか?それとも
『エルヴィン…。私。ニーナよ』
柔らかく落ち着いた声。
しかし普段よりも声のトーンが暗い。
「開いているぞ。入ってこい」
『…エルヴィン』
オレンジ色の灯りに照らされる、艷やかな黒い髪。
ドアを閉める為にこちらに背を向けるニーナ。
サイドの髪を後ろで束ねたそこに留められているのは、いつかの自分が彼女の誕生日に贈った蝶の髪飾り。
「どうしたんだ」
『……エルヴィン。ウォール・マリア奪還作戦には、あなたも行かなきゃならないの?』
「ああ、そうだ。私がやらなければ成功率が下がる。リヴァイにも言われたさ。お荷物抱えんのはまっぴらだ、お留守番してろ、とな。彼の言う通り、片腕を失った手負いの兵士は現場を退く頃かもしれない」
『…そうよ。腕1本で何ができるって言うの。リヴァイにも言われたなら、現場の指揮も作戦の実行もみんなに託して、あなたはここで待っててくれたらいいじゃない』
言いながら、ニーナの瞳が潤んでいく。
『お願いエルヴィン。行かないで。これ以上大切な人を失いたくないの……』
「そういうわけにはいかない。犠牲を出さずにこの作戦を決行するのは難しいだろう。だがこの世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなければならない。だからお前の頼みは聞けないんだ。分かってくれ。」
『……っ』
とうとうニーナの大きな瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
白い頬を伝い、顎から滴り落ち、床に濃い水玉模様を描いていく。
しかしそれを見ても、エルヴィンの意志は揺らがなかった。
そうだと分かっていて、それでも一縷の望みをかけて話をしにきたニーナ。
『……エルヴィン。どうせ私にはあなたを引き留めることなんてできないって分かってた……。でも、お願い。生きて帰ってきて。…それで、地下室のことをあなたの口から私にも教えて』
「ああ。エレンの家の地下室に何があったのか、土産話を楽しみに待っていてくれ。お前は女王の護衛をサボるんじゃないぞ」
『…ぅ……。エルヴィン…約束だからね……』
静かに涙を流すニーナを、エルヴィンは残った1本の腕でそっと抱き寄せた。
想い人の腕に包まれて、小さく肩を震わせるニーナ。
ニーナが自分に好意を寄せくれているのは知っている。
自分も彼女を、かけがえのない仲間として、その中の特別な存在として意識していた。
しかしお互いいつ死ぬか分からない立場。
おまけに自分は腕1本の手負いの兵士。
彼女の想いに応えて、幸せにできる自信はない。
そして何より、自分は自身の夢のために死をも恐れず2日後の作戦を実行しようとしている。
彼女を泣かせるのには胸が痛むが、それすら凌ぐほど、この世の真実を知りたいと願う気持ちのほうが大きかった。
その翌日。
エルヴィン、リヴァイ、ハンジたち調査兵団の上層部を、ザックレーやピクシス、ナイルたちが敬礼で見送る。
その中にはまだ瞼の赤みが引いていないニーナの顔もあった。
しかしその琥珀色の瞳にはもう涙はなく、静かな光を宿して、戦地に赴く仲間たちを見つめていた。
お願いみんな。どうか死なないで。
生きて帰ってきて。
リヴァイ、ハンジ、エルヴィン……。
神様どうかお願いします。
私の大切な人たちを、みんなを、護ってください。
心の中で祈りながら、左胸に当てた拳を更に強く握った。
そして、調査兵団は帰還した。
多大な犠牲を払って。
一体何人殉職したのか。
超大型巨人の放つ熱にやられた者。
何も分からず獣の巨人の石礫に粉々にされた者。
そしてその獣の巨人に特攻して命を散らした者。
調査兵団団長、自分と仲のよかった兵団幹部の仲間、そしてまだ名前も覚えられていない新兵たち。
念願のウォール・マリア奪還と、超大型巨人の能力の奪取、エルヴィンが見たがっていた地下室の謎の解明には、支払う代償があまりにも大きすぎた。
女王の護衛を務めていたニーナは、兵団の報告を聞き、もう帰ってくることのない想い人の部屋で泣き崩れた。
だから言ったのに。行かないでって。
もう二度とあなたに会えないなんて。
生きて帰ってきてくるって約束したじゃない!
止め処なく溢れる涙。
胸が張り裂けそうに苦しい。
口元を押さえ、必死に声を殺して涙を流す。
『うぅっ…エルヴィン…エルヴィン……!』
もう届かない相手への悲痛な呼び掛けが、主のいなくなった空間に溶けていく。
どのくらい時間が立っただろうか。
ふわり。
『…!?』
突然、頭から背中にかけて温かい何かが覆い被さった。
そして、その上からぎゅっと包み込まれる。
よく知っている、紅茶の香り。
『……リヴァイ…?』
「…ああ」
自分を包み込んでいたのは、リヴァイの外套と、彼の逞しい腕だった。
『リヴァイ…っ…生きててくれた…!ほんとによかった……!』
ニーナはリヴァイのほうに向き直り、彼の胸に飛び込んだ。
リヴァイはそれを受け止め、再びぎゅっと強く抱き締める。
「…すまない、ニーナ。巨人化の注射をアルミンに打つと判断したのは俺だ……」
『…うん』
「一度地獄から開放された奴を再び地獄に呼び戻すことができなかった。お前がエルヴィンのことを好きだと知っていたのに…。生きて連れて帰れなくて、本当にすまない……」
普段のリヴァイからは想像もつかないような、弱々しい声。
『謝らないで、リヴァイ。エルヴィンが帰ってきてくれなかったのは悲しいけど、その選択が間違いだったなんて思ってないから……。それに、リヴァイやハンジが帰ってきてくれただけでも、私はほんとに嬉しいよ』
そう言ってリヴァイの腕の中で静かに涙を流すニーナ。
しばらくして、彼女の髪を撫でていたリヴァイが口を開く。
「…なあ、ニーナよ。俺じゃだめか?」
『…?』
「俺じゃ、エルヴィンの代わりにはなれねえか?」
リヴァイの問いに、ニーナは一旦身体を離す。
『エルヴィンの代わりなんて、誰にもできない。それはハンジだってリヴァイだって同じよ。みんなそれぞれがたった1人の、私の大切な人たちなんだから…』
言いながら、琥珀色の瞳から透明な雫が零れ落ちていく。
それをそっと指で拭うリヴァイ。
「…そうか。…そうだな」
そして真っ直ぐにニーナを見つめる。
「俺はずっと、ニーナのことが好きだった」
『リヴァイ…』
「エルヴィンのことを忘れろとは言わねえ。でも、お前が1人で泣かなくていいように、俺に傍にいさせてくれないか。これからは俺がお前を守る」
真剣な眼差しにニーナの瞳がまた潤んでいく。
『…リヴァイ。私、あなたが好意を寄せてくれてるの気づいてたの。…でもやっぱりエルヴィンのことを諦めきれなくて。きっとあなたのこと、たくさん傷つけてたよね……。それなのにあなたの優しさに縋るなんて、あまりにも虫のよすぎる話だと思うの…』
うつむいたニーナの頬をリヴァイの両手が包み込み、自分のほうを向かせる。
「気にするな。俺だってお前に気づかせるためにわざと分かりやすく色々やってたんだ。どうってことねえよ」
『リヴァイ……』
「俺はお前を置いてさっさとくたばったりしない。約束する。人類が自由を取り戻すその時まで、その後も、お前を傍で支える」
その言葉に、ニーナがまた大粒の涙を流す。
『…っ。リヴァイ…ありがとう……』
「…ああ。ニーナ、返事は今すぐじゃなくていいから、ゆっくり考えてほしい。俺の気持ちは変わらない」
『うん…』
リヴァイはもう一度、自分の外套ごとニーナを強く抱き締めた。
エルヴィン。
お前が想いに応えられなかった相手は、俺が必ず守るから。
ニーナを泣かせたこと、幸せにできなかったこと、せいぜい後悔しながら見ておくことだな。
end