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ゆうき あきや
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#心理描写重視
コメント
1件
第5話、読み終えました!「ただ寝ているだけ」の配信がここまで人の心を掴むって、もうシロちゃんの存在そのものが奇跡ですよね。特に偏頭痛で苦しんでた視聴者が画面越しに癒やされる展開、あそこは「この世界の癒やしの仕組み、どうなってるんだろう?」と設定面でもワクワクしました。同接がみるみる伸びてギフトが飛ぶ熱狂も、地続きの現実感があって面白い。女子高生・小春ちゃんの配信知識も伏線っぽくて気になります!
第5話:初回配信。ただ寝ているだけなのに
【LIVE】の赤い文字が点灯したスマートフォンの画面。
そこに映し出されているのは、使い込まれた古い木目の縁側と、色鮮やかな緑が広がる北の大地の風景。そして画面のど真ん中で、座布団を占領して丸くなっている真っ白な毛玉――シロの姿だけだった。
BGMはない。
聞こえてくるのは、マイクが拾う「サーッ」という微かな風の音と、遠くで鳴く野鳥の声。それから、シロが規則正しく刻む『スゥ、プスゥ……』という平和な寝息だけ。
「……これ、本当に配信されてるのかな」
カメラの死角になる縁側の端っこで、俺は声を潜めて小春に尋ねた。
「されてますよ! ほら、右下の目のマーク。今、同接(同時接続者数)が『3』になってます」
小春が自分のスマホ(視聴者側のアカウントでログインしている)の画面を指差す。
「3人……。小春ちゃんを除いたら、見ず知らずの人が2人も見てくれてるのか。でも、動かない猫の映像を見てて面白いんだろうか」
「いいんです! MeTube(ミーチューブ)のアルゴリズムは視聴維持率が命ですから! 開いた人が『なんか心地いいな』ってそのまま流し見してくれたら、どんどんおすすめに載りやすくなるんです」
女子高生、妙に配信のシステムに詳しいな。
俺は感心しつつ、自分のスマホでお茶を飲みながら画面を見守った。
十勝平野の澄んだ空気が通り抜けるこの縁側は、ただ座っているだけでも心地よい。焦りも不安もない、絶対的な平穏の時間が流れていた。
一方その頃――。
画面の向こう側、都内の狭いワンルームマンションで、一人の男が死んだような目でスマホをスクロールしていた。
時刻は夕方。しかし彼は夜勤明けで、慢性的な睡眠不足と重度の偏頭痛に悩まされていた。市販の頭痛薬をウイスキーで流し込み(最悪の飲み方だ)、眠りにつこうとするが、脳が興奮して全く眠れない。
『あー、クソ。なんか適当な睡眠導入用ASMRでも流すか……』
そう思ってMeTubeのアプリを開いた彼の目に、ふと、おすすめ欄の隅っこに表示された見慣れないサムネイルが飛び込んできた。
タイトルは『【日常チャンネル】田舎の縁側と猫』。
サムネイルは、信じられないほど毛並みの美しい白猫が寝ているだけの静止画。
『……なんだこれ。毛並み、綺麗すぎだろ。加工か?』
男は吸い寄せられるように、そのライブ配信をタップした。
画面が切り替わる。
そこには、サムネイルと全く同じ構図で眠る白猫がいた。
『……動いてない。静止画のループ配信か?』
男がブラウザバックしようとした瞬間。
画面の中の白猫――シロの耳が、ぴくっと動いた。
そして、スピーカーから『ゴロゴロ、ゴロゴロ……』という、深く、低いモーター音のようなものが流れ始めた。
「……ッ!?」
男は思わずスマホを顔に近づけた。
なんだ、この音。ただの猫の喉鳴らしじゃない。
イヤホンを通して鼓膜を震わせるその音は、まるで特殊な周波数を放っているかのように、男の脳の奥深くに直接響いてきたのだ。
それと同時に、画面の中のシロの白い毛並みが、夕日を浴びて淡く……本当に微かに、真珠のような光を放ったように見えた。
その瞬間だった。
男の頭を締め付けていた鉛のような偏頭痛が、スッと霧散したのだ。
「……は? え、嘘だろ?」
頭痛だけではない。凝り固まっていた首の筋がほぐれ、眼精疲労で霞んでいた視界がクリアになる。まるで、画面越しにマイナスイオンのシャワー……いや、神聖な滝行でも浴びているかのような、圧倒的な浄化作用。
男は震える指で、チャット欄に文字を打ち込んだ。
『なにこれ。サムネの猫の毛並みが綺麗すぎて開いたけど、動いてる?』
『てか、このゴロゴロ音、ヤバくないか? 聞いてるだけで頭痛治ったんだが』
男の書き込みを皮切りに、ぽつり、ぽつりと、他の視聴者からもコメントが投下され始めた。同接の数字は、いつの間にか『5』から『12』、そして『28』へとジワジワ増え始めている。
『おすすめから。なにこの猫、神々しすぎる』
『画質良すぎん? 8Kカメラでも使ってんの?』
『いや、カメラのせいじゃない。猫自体がなんか光ってないか……?』
『仕事のストレスで胃が痛かったのに、この配信開いた瞬間治った。マジで』
『ASMRとして最強すぎる。ずっと聞いてられる』
『主、これ何て種類の猫!? まさかCGじゃないよね!?』
チャット欄が、徐々にざわつき始める。
「お兄さん! コメント来てますよ! 同接も30人超えました!」
カメラの裏で、小春が興奮した様子で俺の袖を引っ張った。
「本当だ。すごいな、ただ寝てるだけなのに」
「だから言ったじゃないですか! シロちゃんはただの猫じゃないんです。画面越しでも、その『癒やしパワー』が伝わってるんですよ!」
俺たちは急いでコメント欄に目を通す。
「えーっと、『何て種類の猫?』だって。小春ちゃん、シロって何猫だろうな」
「うーん、ペルシャ猫とかメインクーンにしては大きいし、雑種……ですかね? あ、私コメント返しますね!」
『(モデレーター)小春:コメントありがとうございます! この子は昨日お兄さんの家の庭で行き倒れていた野良猫の「シロちゃん」です! 種類はわかりません!』
小春のコメントが固定されると、チャット欄がさらに加速した。
『野良!? 嘘でしょ、こんな神使みたいな毛並みの野良猫がいるか!』
『保護猫なのか。主さん優しい』
『てかモデレーター小春ちゃん? 娘さん?』
『(モデレーター)小春:私はお隣に住んでる女子高生です! お兄さんは一昨日東京から引っ越してきたばかりなんですよ〜』
『限界集落で拾われた神々しい猫と、隣の女子高生……設定がラノベすぎるww』
『でもこの映像の癒やし効果はガチ。なんか涙出てきた』
視聴者たちの熱量に呼応するように、MeTubeのAIが「この配信は視聴者の滞在時間が異常に長い」と判断し始めたのだろう。おすすめへの露出が一気に増えたのか、同接のカウンターがスロットマシンのように回り始めた。
『45』『62』『88』――そして、あっという間に『120』を突破する。
「お、おい小春ちゃん。なんかすごい勢いで人が増えてるぞ」
「わわわ、本当ですね! 100人超えました! 初回配信で無言でこれは異例のスピードですよ!」
そんな俺たちの慌てぶりなど知る由もなく。
画面の中の主役は、ふぁぁ……と大きく口を開けてあくびをした。
そして、寝返りを打ってカメラにドアップで近づくと、サファイアとアンバーのオッドアイをパッチリと開いて、レンズの奥にいる120人の視聴者を真っ直ぐに見つめた。
『ミャウ?』
可愛らしい首かしげと、その直後に放たれた『極大の癒やしオーラ(画面越し)』。
『『『ああああああああああああああ!!!(尊死)』』』
『オッドアイ!? 神かよ!!!』
『スクショ! スクショの手が止まらない!!』
『無理、可愛すぎる。仕事辞める』
『【MeTubeのギフト:¥1,000】おやつ代にしてください!』
「……えっ。今、なんか黄色い札みたいなのが飛んだぞ?」
「ギ、ギフトです! 投げ銭! 配信開始20分でギフト飛ぶなんて、前代未聞ですよ……!」
ただ縁側で寝て、一回あくびをしただけ。
それなのに、チャット欄はすでに熱狂の渦に包まれていた。
北の大地の片隅でひっそりと産声を上げた【日常チャンネル】は、こうして世界中の疲れた現代人たちに見つかってしまったのである。