テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「…週末、覚悟しとけよ?」
「っ!?」
心臓が太鼓のように暴れる中
圭ちゃんは何食わぬ顔で俺の腕を引っ張り、本棚の影から歩き出した。
◆◇◆◇
図書館を後にしたのは、夕方もすっかり遅くなった頃。
圭ちゃんと並んで帰路を歩いていると、先程までの綺麗な夕焼け空が嘘のように
重く黒い雲が頭上に垂れ込めていた。
肌を撫でる空気も、どこか湿り気を帯びて冷たい。
「…なんか、雲行き怪しくない?」
俺が不安そうに空を見上げると
圭ちゃんはカバンを肩にかけ直しながら、小さく肩をすくめた。
「予報だと、今日の降水確率は低かったはずだけどな……」
圭ちゃんが言い終えるのが早いか
ポツリ、ポツリと、アスファルトの地面に黒く小さな点が現れ始めた。
「わっ……!」
最初の一滴が俺の頬を冷たく叩いたかと思うと
次の瞬間には、ザーッという凄まじい音と共に大粒の雨が激しく地面を叩きつけ始めた。
「っ、とりあえず走るぞ!」
圭ちゃんが咄嗟に俺の右手を強く掴み、走り出す。
雨のカーテンで視界が白く霞む中、近くの公園に滑り込む。
幸いにも、古びたベンチの横に、大きな木々と小さな東屋の軒先を見つけた。
そこに転び込むようにして飛び込んだ。
「ふう、セーフ……!」
濡れた前髪をバサバサと掻き上げながらベンチに座ると
激しい雨音が世界を遮断するように周囲を包み込んだ。
細かい雨粒が軒先から絶え間なく落ち、水溜りを作っていく。
「結構濡れちゃった…制服じっとりする……」
冷えてきた空気の中、濡れた制服の袖を軽く絞りながら言うと
隣に腰掛けた圭ちゃんが、俺の様子をちらりと横目で盗み見た。
「りゅう、寒くねぇか?」
「え?うん、平気だけど……」
言い終える前に、鼻がむずがゆくなり、小さなくしゃみが飛び出してしまった。
「へっくしゅん!」
静かな空間に響いた自分の声の大きさにびっくりして、恥ずかしくなって俯くと
頭上からフッと低い笑い声が降ってきた。
「ったく……」
気付くと、周囲を包んでいた冷気が遮断され、温かい重みが俺の肩にかけられていた。
見れば、圭ちゃんが自分のブレザーを脱いで、俺の肩にそっとかけてくれていた。
「えっ、悪いよ!圭ちゃんこそ風邪ひいちゃうかもしれないし……っ!」
慌ててブレザーを返そうとするが
圭ちゃんは大きな手でそれを上から押さえつけ、当たり前みたいな顔で言った。
「俺は丈夫だからいいんだよ。お前は細ぇんだからすぐ体調崩すだろ」
「…じゃ、じゃあさ」
俺は、肩にかけられた圭ちゃんのブレザーの襟をぎゅっと握りしめ
少しだけ勇気を出して呟いた。
#ぴちあーと
伊月
404
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!