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野々さくら
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#ラブコメ
猫塚ルイ

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「くっついてたら、圭ちゃんも寒くないよね…?」
「まあ……暖まるんじゃねぇの」
素っ気ないけれど、拒絶はしない。
「……えっと、じゃあ…ハグ、してもいい?」
「好きにすれば」
傍から見ればどこまでもぶっきらぼうな言葉なのに、その視線は驚くほど優しくて、胸が高鳴る。
「……ありがと、圭ちゃん」
ゆっくりと距離を詰め、ベンチの上で圭ちゃんの身体にそっと腕を回した。
密着した瞬間、圭ちゃんの高い体温がじわりと制服越しに伝わってきて
それだけで張り詰めていた心が芯から安心していく。
圭ちゃんの広い胸にそっと頬を押し付けると
ドクドクと、心臓の鼓動が早鐘のように鳴っているのがダイレクトに伝わってきた。
それが、自分の鼓動なのか
それとも圭ちゃんのものなのか分からないほど、お互いの心拍数が上がっていくのが分かる。
しばらくの間
俺達は何も喋らず、ただ静かにザーザーと激しく降る雨音に耳を傾けていた。
外の世界は激しい嵐のようだったけれど、この小さな軒先の下だけは
まるで時間がピタリと止まってしまったかのように静かで、温かい空間だった。
やがて、沈黙を破るように、先に口を開いたのは圭ちゃんだった。
「……りゅうはさ、俺が言葉で『好き』って言わねぇと、すぐ不安になったりすんの」
「え?」
唐突で、だけど少しだけ弱気な質問に戸惑っていると
圭ちゃんは俺の髪の毛を指先で弄りながら言葉を続けた。
「いや、気になっただけ。言葉が足りねぇのかなって」
「えっと、ごめん。俺、めんどくさい……?」
「いや、別に面倒じゃねぇよ。そんな不安そうな顔すんなって……」
「ぅ、うん…」
圭ちゃんは少しだけ腕の力を強め、俺をさらにきつく抱きしめた。
「何度も言うけどさ。お前のこと、ちゃんと好きだからな。お前のしたいことなら、俺は何でもしたいし……。まあ、可能な範囲だけどさ」
その言葉が嬉しくて、俺は胸がいっぱいになる。
「…うん。俺もね、圭ちゃんのこと好きだよ」
「知ってる」
フッと笑う圭ちゃんの胸元から、俺は勇気を振り振り絞って、顔を上げて彼を見上げた。
至近距離で視線が交差する。
「圭ちゃんは強引だし、ぶっきらぼうだけど、本当はすごく優しくて…」
「だから俺、もっと圭ちゃんとキスしたいし、外でも手繋ぎたいし、こうやっていっぱい抱きしめられたい……っ」
「それに俺、圭ちゃんに可愛いって思われたいし、その…えっちなことだって、したい……っ」
口を開けば、堰を切ったように大胆な本音が止まらなくなってしまった。
自分で自分の発言の恥ずかしさに気づき、一気に顔が血の引くように熱くなる。
「……」
「ぁ、や、やっぱり今のなし……!!ごめん、俺、何変なこと言っちゃってんだろ、忘れて──」
慌てて両手で顔を覆って誤魔化そうとした、その時。
覆った俺の手を、圭ちゃんの優しい手が退けた。
ゆっくりと、彼の綺麗な顔が近づいてくる。
「んっ」
触れ合うだけの、静かで優しい口づけだった。
だけど、互いの濡れた体温と
狂おしいほどの鼓動がダイレクトに感じられる、どこまでも濃密な瞬間。
唇が離れても、お互いに名残惜しくて、じっと至近距離で見つめ合ってしまう。
「あんま…可愛いこと言うな」
そう呟いた圭ちゃんの耳たぶが、いつもより真っ赤に染まっているのが見えた。
あのクールな圭ちゃんが、俺の言葉で照れている。
それが、たまらなく愛しくて、俺は今度は自分から、彼の首に強く抱きついた。
「…けっ、圭ちゃん、今可愛いって言ったよね…!俺可愛い…?」
「何度も言わせんな」
「…んへへ…っ、圭ちゃんだいすき……!」
「…っ、現金な奴」
呆れたように言いながらも、圭ちゃんの手は優しく俺の背中をポンポンと叩いていた。
◆◇◆◇
それから、どれくらいの時間が経っただろうか。
あんなに激しかった雨足は次第に弱まり
遠くで微かにゴロゴロと鳴っていた雷の音も、いつの間にか聞こえなくなっていた。
「……あ、雨止んだね」
圭ちゃんがベンチから立ち上がり、濡れた軒先から一歩外に出て空を見上げる。
「お、虹出てんじゃん」
彼の弾んだ声に誘われるように、俺もブレザーを羽織ったまま空を見上げた。
さっきまでの暗雲が嘘のように引き裂かれ
雲の隙間から差し込む眩しい夕陽の光と共に
空の端から端までを繋ぐような、大きな七色の虹が美しくかかっていた。
「すご…っ!こんなに綺麗でハッキリした虹、初めて見たかも」
思わず言葉を失って見惚れていると
不意に、俺の左手に温かい感触が触れた。
「!」
驚いて隣を見ると、圭ちゃんが自然な動作で
俺の左手をしっかりと握りしめていた。
恋人繋ぎで、指と指が深く絡み合う。
「帰るぞ、りゅう」
「…!う、うんっ!」
繋いだ手の温もりを確かめるように、俺からもぎゅっと強く握り返すと
圭ちゃんもまた、それに負けないくらいの強い力で、愛おしそうに握り返してくれた。
水溜りに反射する虹の光を踏み越えながら
足音はしっかりと、同じ歩調で家路へと向かっていった。