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羊と亀のお遊戯会
515
#名探偵
空蝉 桜
136
おきつね
101
79 ◇ふたりで異人館巡り
私たちはホテル北野プラザ六甲荘で食事した後、異人館街に
向かうことにした。
山下さんのお勧めで私たちは牛肉のひつまぶしを食べることに。
甘めのタレが掛かっているお肉をそのまま食べ、次は薬味をつけていただく。
山葵が効いてさっぱりしたお味。
最後はお茶出汁をかけてさらりとお茶漬けに。
私は神戸ビーフのひつまぶし膳を食べただけで、まだ異人館巡りも
していないというのに、山下さんに付いてきてよかったと思った。
美味しいものをいただくと心がホクホクするのよねー。
しかも自分よりも若いイケメン男性と食事だなんて、自分でも
信じられないわー。
へたっぴいだけど、小説書いててよかった。
書いてなければ、今日のこのランチの至福の時間もなかったのだから。
近場に住んでいながら一度若い頃に来たことがあるとはいえ、丁寧に
見て歩き異人館街を愛でる……というところまではできていなかった街
なので今回は楽しみだ。
食事が終わったところで山下さんが地図を見せてくれる。
「一度にあちらこちらとたくさんは見られないと思うのでどこか絞っ
行ってみようかと思いますが百子さん、どこがいいですか」
「神社があるんですね。
若い頃にこの辺は一度来たことがあるのですが盲点でした。
神社があることを知りませんでした。
お参りしてみたいですね」
「では北野天満神社に行くとしましょう」
私たちはプラザホテルを後にして北野坂を登り、1180年に平清盛が
建立し学問の神様菅原道真公が祀られているという神社に入っていくことと
なった。
まず急な石の階段を上がっていくと、『叶い鯉』という鯉のオブジェが
祭られており、この鯉に水をかけて祈願すると願いが叶うらしく
水を鯉にかけるところから『恋』にかけるとなり、恋愛成就の御利益が
あるとされているのだそうだ。
そしてその先へと進むと天空の神社と呼ばれているように、境内からは
神戸の美しい街並みと港の見える景観が展望できた。
感激しつつ上空の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、それを少しずつ
放出していると、隣で一緒に景観を眺めていた山下さんから
「まだまだ見たいところが満載なのでまた来月こちらに来ませんか」
と声が掛かった。
「いいですね。次はどこに行きましょうか」
「百子さんのお好きなところへ行きましょう」
「ありがとう。じゃあ、考えておきますね」
そう私が返事をすると見上げた先にいる人は軽く微笑み返しをくれた。
80 ◇テンションが下がるのをやめられない
神社の境内から眺めた景観のすぐ目の前に見えていた美しい風見鶏の館は
神社の階段を下り右手を見るとすぐに視界に入ってきた。
なぁ~んだ神社のほぼ真横に建ってたんだ。
上からだと距離感がちょっとよく分からなかったけれど。
風見鶏の館の前には北野町広場がありここからも下方の街並みがよく見えた。
「神社から見た景色とはまた少し違って見えますね」
「そうですね。少しだけ下界に近づいてるからかしら」
「ぼちぼち帰るとしますか。疲れてませんか?」
「いいえ、と言いたいところだけど少し……」
「私もです。日頃の運動不足がたたってますね。
新神戸駅のほうへ歩きながらタクシーを拾いますよ」
「三宮からは遠いんじゃありません?」
「タクシーを捕まえられなかった時の保険です。
新幹線の駅だと確実にタクシー乗れますからね」
「……なるほど」
帰りの足を気にしながら広場から出て行こうとしたら、
私たちの後ろから声がした。
「山下さん……」
その声に反応して山下さんが後ろを振り返った。
「やぁ、島本さん寒いのに異人館巡りに来てたんだ」
「その発言はちょっと……」
「そうだよね。俺も来てるのに、ははっ。
だけど俺は天満神社にお参りした帰りだ。
異人館は巡ってないから」
私は気を利かせてこちらへ少し頭を下げてくれた女性と山下さんのトークが始まったので、
遠慮させてもらおうと近くにあった長椅子に腰かけて話が終わるのを待つことにした。
私と話をする時とは随分違う印象の山下さんの朗らかな話し方に自分の
今までウキウキしてた気分が……テンションが一気に下がっていくのを感じた。
山下さんと話している女性は20代後半か30代前半にしか見えない。
ここでどうしてだか分からないが自分が50代であることに打ちのめされ、
そしてそのことに甚く傷ついた。
いくつになっても女は女なのだと確認させられたような気持ちになったからだ。
山下さんは恋人でもなく異性として恋してるわけでもなく、それでも
自分より随分若い同性が出現するとこんな俗っぽい考えに至るのだと思うと、
あまりに痛すぎてそんな自分が嫌になった。
81 ◇山下の部下と遭遇
「今日は山下さんの近くにいた女性と一緒に?」
私たちが話を始めるとその人は私たちから距離を置き今は離れた場所で
私たちの会話が終わるのを待っているようだった。
気遣いのできる大人の女性って感じ。
既視感っていうか、彼女を見るのは初めてじゃないような……。
「まぁね」
「仕事絡みの人なんですか?」
「うン?……まぁそんなとこかな」
曖昧な返事しかしない山下さんにゼツボー。
今まで私がそれとなく粉を掛けても全く乗ってこなかった相手のことだから、
そんな彼のことだから、一緒にいる女性のことは仕事絡みなのだと思いたいって
いうか……思うことにしよう。
うん、そうしよう。
「じゃあ、失礼します」
「あぁ、気を付けて帰れよ」
「ラジャァ~」
私は山下さんに敬礼して友人の待つ場所に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「亜弥っぺ、さてと、さっきのいい男誰?」
一緒に今回北野へ来た友だちが山下さんのことを訊いてきた。
「会社の上司」
「既婚者だよね、年齢的に見て」
「たぶん独身じゃないかと思ってるんだけど」
「曖昧だね」
「あの容貌と落ち着きからして奥さんいるでしょって思ってたんだけど、
誰かと話してる時に独身だって聞いたような気もして……
はっきりとは知らないんだ。
ちらっと同棲してる相手がいるっていうのも聞いたことがあって、どっちにしても
たまたま聞いた話ばっかで本人から聞いたことないし……山下さんってミステリアスな
男性なのよ」
「まずはその辺をちゃんと調べておかないとアプローチできないよね」
「うん……」
「好きなら、奥さんでも同棲相手でも取っちゃえばいいんだよ。
大体、好きな人に出会うこと自体すごいことなんだもん。
あたしなら、好きな人見つけたら全力でいくかな」
いとも簡単にすごいことを言ってのける私の友人天地理子。
彼女は母親が中国人父親が日本人で医学生の弟がひとりいて、何でも
言うことを聞いてくれる幼馴染の信ちゃんがいて、その上もうひとり、
学生時代にできた便利に使える男友だちがいる。
天真爛漫なのは知っていたがよもやここまで自分の欲望に
忠実な人間だったとは。
私はこの時恋人ができても理子にだけは紹介するまいと決めた。
コメント
1件
読了しました📖 百子さんと山下さんの異人館巡り、まずはお肉が美味しそうすぎる…!食べ方の流れ&茶漬けで締めるのが、もう大人のデート感あってすごく良かったです🥺 でも後半、島本さん登場からのテンション急降下…わかる、すごくわかる。自分が年齢意識してしまう瞬間って、急に差し込まれる痛さがあるんですよね。百子さんの切なさがリアルすぎて、心がぎゅっとなりました。 理子ちゃんの欲望ストレートな感じは逆に清々しいけど、あそこまで言われると紹介したくなくなるのも納得(笑) 山下さんのミステリアスなところ、気になります…!更新楽しみにしてます🌙