コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
_くん!
_ら…お、くん!
「ぅゔん…」
「らだおくん、朝だってばー」
ハッとして体を起こすと、部屋の入り口でみどりが口をへの字に曲げて不機嫌そうに俺の方を見ていた。
こんなのもうデジャヴでしかない。
誰かの呪いか、もしくは悪い魔法にでもかけられたのか?
「…みど、り……ゔっ、ぇ…!」
「ラダオクンッ!!」
みどりの顔があの肉塊とスイッチして、視界が明滅する。
極彩色に彩られた視界は、脳を直接揺らされているような不快感があった。
気持ち悪い…
酸っぱい苦い味が口の中と喉を刺激して、それがまた胃をぐらつかせる原因になる。
浅い呼吸が思考を遅くして、繰り返される現状を理解することもできなかった。
「落ち着いた…?」
「うん…っ…ご、ごめん…」
「気ニシナイデ」
上手く、みどりの顔を見れない。
今は形を保っているけど、あと数時間もしないうちにブヨブヨした肉塊になって恨み辛みを……だめだ、考えていたらまた吐きそう。
それにしたって、あのブヨブヨ状態のみどりはどうして俺を恨んでいるんだ…?
「みどり、俺にされた呪いたいくらい嫌なことって…なんかあったり、する……?」
きょとんと目を丸くしたみどりはんー、と少し考えたのちにキッパリとこう言った。
「調子が悪いの隠そうとしたコト……トカ?」
「ゔっ…さっきのはホントごめんって……」
「イイヨ」
チラリと時計を見ると現在午前4時。
起きたのが2時半過ぎくらいだったらしいから、悪夢から目覚める時間に決まりはないみたい…
「朝の散歩、また今度にしようネ」
「…え?」
「ェ?」
悪夢通りになると考えれば、今回もみどりにせっかく早起きしたのに!と駄々を捏ねられると思っていたのに。
「行くぞって言われるかと、思った…」
「ハァ?体調不良者をこんな朝早くからわざわざ散歩に連れ出すワケないでしょ?」
介護か?と吐き捨てるみどりの勢いに思わず吹き出すと、みどりはぽかんとした後なんで笑うの!なんて怒り始めた。
「はぁぁ…ははっ、みどりは優しいねぇ?」
「…全然元気ジャン」
「うん、だから散歩行こう?」
「エェ………わかった、行こう」
あぁ、わかってしまった…今のところだ。
みどりは今確かに俺の提案を却下しようとしてた。
それなのにまるで誤った道に進むのを修正するように提案に肯定していた。
「先に行ってるね、らだおくん」
「…うん」
少し虚ろな瞳が、みどりじゃない別の何かと話しているようで嫌になる。
扉がゆっくりと閉まって、足音が遠ざかる。
窓の外を見て溜息を吐き出した、その時。
「本当は、もう気がついてるデショ?」
「え?」
慌てて扉の方を見たけど、近くにみどりがいるような様子もない。
怖くなってとりあえず窓の外を見たら、下の方で目を瞑って深呼吸しているみどりがいた。
「は?…おかしいって」
いくら歩き慣れた館とは言え、俺の部屋から玄関に行って外へ出るまではこんな数秒じゃ絶対に時間が足りない。
シンとした部屋の中で、置き時計がカチコチと響いている。
「……え…あれ?」
ぱちんとシャボン玉が割れたみたいに、目の前の景色が弾けた。
俺は黒曜石みたいに黒い空間の中にいて、足元は水で満ちている…が、少なくとも血の匂いはしない。
「ラダオクン」
「みど…え、お前、足が……」
太ももの真ん中あたりから下が無い。
傷口からボタボタと血を流して俯くみどりは、俺の心配をよそにガシガシと頭を両手で掻き始めた。
「みど_!?」
「ラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクンラダオクン!」
「は!?…ぅ、るさっ…!?」
金属を擦り合わせたみたいな甲高い音に、思わず両耳を塞いで身を縮こまらせる。
_本当は、とっくに気がついてるんでしょ?
【続】