TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

きみの悪い夢

一覧ページ

「きみの悪い夢」のメインビジュアル

きみの悪い夢

3 - 後編:きみの悪い夢

♥

200

2025年10月04日

シェアするシェアする
報告する


_くん!

_ら…お、くん!


「ぅゔん…」

「らだおくん、朝だってばー」


ハッとして体を起こすと、部屋の入り口でみどりが口をへの字に曲げて不機嫌そうに俺の方を見ていた。


「んぁ…今日なんかあったっけ…?」

「ハァ?らだおくんが朝の散歩一緒に行こって言ったんじゃん…」


ああ、そう言えばそんな約束したっけ。

時計を確認したらまだ2時半を過ぎたくらい…たしかに早朝散歩とは言ったけど、いくらなんでも早過ぎやしないかい?


「早過ぎだって…二度寝してから行こ」

「エェ…せっかく早起きしたのに…」

「だからこうして二度寝ができるんだよ」

「ワ!?」


枕元でへちゃむくれていたみどりをベッドに引き摺り込むと、自然の優しい香りが鼻をくすぐって、目が覚めたばかりで朧げな今ならすぐ寝てしまいそう。


「ンンン……シカタナイナァ…」


腕の中でモゾモゾと体勢を変えたみどりは頭が俺のお腹の辺りにくるまで位置をずれてから、おやすみと呟いて静かになった。

その位置だと俺のメリットが掻き消えるのだけど、みどりは気持ちよさそうに寝ているから今更起こすのもなんだか野暮ってもんか。


「おやすみ」


そうして次に目が覚めると、置き時計は5時過ぎを示している。

もうそろそろいい時間だ。

みどりを揺り起こしたら寝癖のついた髪の毛がぴょこんと跳ねていて可愛かったけど、指摘すると恥ずかしがって怒るので軽く手で梳いてやるにとどめておく。


「行こうか」

「ウン!」


たまには2人でなんてことのない雑談をしながら、スッとした明るい光に染められた街をあてもなく彷徨い歩くのだって悪くない。


「…朝のにおいがする」

「朝のにおい?」


少し歩いたところでふと深呼吸をしてからそう呟いたみどりに聞き返すと、みどりは目を閉じたままポソポソと小さな声で呟いた。


「昨日の夜降ってた雨の、少し湿ったにおいと、明け方のすっきりしたにおい」

「におい…?それ嗅覚って言うより触覚とかその辺じゃない?肌で感じた事じゃん」


疑問をそのまま口にすると、ジトーッと俺を非難するような瞳が俺を見ていた。

やがて諦めたのか、やれやれと肩をすくめたみどりが困ったように笑う。


「まったく…ラダオクンはコレだから…」

「なーにぃ〜?」

「ヤッチマッタナァ?」

「ちーがーう!」


パッと目が合って、手のひらをくすぐられたような、軽いくすぐったさに揃ってクスクスと小さく笑い合った。


「ねぇ、らだおくん」


ふと改まった態度で俺の方を向いたみどり。


「なに?」

「俺、らだおくんの隣にいられて嬉しいよ」


突然の告白チックな言葉に目をパチパチさせると、みどりは照れたようにへにゃりと柔らかく笑った。

普段あまり見せてくれない素直な表情に思わず目を逸らすと、みどりはそんな俺の手を引いて出店通りへと向かった。


「あの店りんご飴専門店だって」

「オープンしたら食べに行こ」


まだ開いていないシャッターを見て言葉を交わしていると、みどりが驚いたようにパッと上を見上げた。

その顔があんまりにも切羽詰まったようだったから、一体なんだと俺も顔を上げる。


「…ぇ?」


この時期、ら民達は大きな看板を作って屋根の上に固定することで外部依頼になる広告費用を削減していた。

最初はいい顔をしなかった運営も、その頑丈さとら民の笑顔に負けて許可を出した。

その看板の1つが、俺めがけてギロチンの刃のように振り下ろされているのは…何故?


「ラダオッ_!!」


ガッと鈍い音が鳴って、恐る恐る目を開く。

なんで全然痛くないのかとか。

なんで前から音が聞こえるの、とか。

考えたくもない未来が広がっているような気がして吐きそうだった。


「ラダオクン、走って…館まで、走ってッ!!」

「み、みどり…足が…!?」

「ハヤクッ!!」


弾かれたようにその場から離れて、医術に長けたコンちゃんや、細かい作業が得意なレウ周りの喧騒を抑えてくれるきょーさんを呼びに走った。

パニックを起こしながらもとにかくついて来いと訴える俺について来てくれたみんなは、その惨状を見て言葉を失った。


「ラダ、オ……イルノ?」

「い、いる…ここにいるよ」

「ミンナ…?」

「みんないる、だからもう大丈夫だよ!」


みどりの太ももの中程から先は、看板によって切断されていた。

血がどくどく流れ続けてて、みどりの伸ばした手は震えてる。

慌ててみんなで駆け寄って手を掴むと、みどりはその手を頬に引き寄せて嬉しそうに笑った。


_あったかいねぇ。


言葉が音になる前に、手から力が抜けた。

その先は、何も思い出せない。



・ ・ ・



飛び起きて、汗を拭った。

なんだか悪い夢を見ていた気がする。

俺がいる場所は相変わらず黒い空間のまま。


「…」


足元の黒が透けて見える水面には小さな波紋が広がっていくつもの模様を描いている。

…雨が降っていた。


「らだおくん、もう気づいてるんでしょ?」


目の前に浮かぶ足の無いみどりが俺に問いかけた。


「………う、ん…」

「ならお願い…こんな夢はもうやめよう」


_みんなのところに帰ろうよ。

切実に、乞い願うように。

お願いだから諦めないで欲しい、と。


「らだおくんのこと、みんな待ってるよ」

「…みどりは?」

「……」


俺の質問には答えないまま、曖昧に笑ってふわふわと少しだけ動いた。


「あの時、俺らだおくんが狙われてるって気が付いたの…結界に反応があったカラ」

「うん」

「らだおくんのこと狙ってる人がいるって思って、すぐに死角を探した」


そしたら、看板が壊れた。

俺を狙った相手の銃弾が、構造上重要な箇所を破壊したのだとか。


「らだおくんなら破壊できたかもしれない」

「…できなかった、俺は怯えたから」

「らだおくんなら避けられたかもしれない」

「…できなかった、俺は動けなかったから」


俺の否定に、みどりは優しく笑った。

俺もみどりも、どちらが悪いとか、そういうワケじゃないから、と。


「運が無かった…ソレダケ」

「じゃあ、俺も運が無かったんだよ」

「違うでしょ、らだおくん」


悲しそうに顔を歪めたみどり。

白い装束の裾を握りしめて、苦しそうに声を絞り出した。


「ナンデ?らだおくんは生きてるじゃん、まだ捨てないでよ、粗末にしないで…!!」

「…」

「コノッ…!!」

「痛”ッ…!?」


目を逸らして黙り込むと、みどりは俺の両耳を鷲掴みにして無理やり目線を合わせた。

上から見下ろすみどりの表情が怒りに変わっている。

怒っている。怒っているんだ、俺に。


「ヤメテヨ!それじゃあ俺は何のためにらだおくんを助けたの!?意味ないじゃん!!」

「っ…」

「無駄に死にたいなら1人で勝手に死ね!!俺たちのそばによってくるな!!最初から手を差し伸べるな!!」

「…だって」

「ダッテじゃない!らだおくんのソレは俺が自分の命を犠牲にしてまで助けた命だ!!」


そこまで言われて、頭の中が怒りで染まった。

みどりは全然わかってない。

ちっとも俺のことを理解していないんだ。

みどりの胸ぐらを掴んで、激情に流されるまま口を開いた。


「だったらこんなのいらなかったッ!!」

「〜ッ!!」


バチンッ!

いつぞやに聞いたものよりももっと痛そうで重々しい音が響いた。

え、嘘だろお前手加減とかないの?

呆然と平手打ちを喰らった頬を押さえて突っ立っていると、また両耳を鷲掴みにされた。


「ふざけんな!!」


ぽたぽた、温度がなくなった冷たい雫が頬の上に降ってくる。

そういえば、この空間には雨が降っているんだったっけ……


「らだおのソレは俺が助けた命だ!!だからッ、らだおは俺の言うこと聞いて、ちゃんと生きてよ!!」


そこは生きろじゃないんだ、と呟くと顔面に手のひらを叩きつけられた…痛い。

あんまりにも強く叩かれたせいで顔がすごく痛い。

そのせいで、目尻に涙が浮かんできた。


「それ、昔俺が言ったやつね?」

「フン」

「…はぁぁ、そっか…そうだよなぁ」


ここは全部俺の希望であって、この世界はずっとifの物語しか作れない。

俺は助けられた者として、助けた者の意思に沿って帰るべき場所に帰らなきゃいけない。

やだなぁ、さびしいなぁ。

つらいなぁ、かなしいなぁ。


「らだおくん、また会えるよ」

「言質取ったからな…忘れんなよ、みどり」


ぽーんぽーんと、華やかな花の模様の鞠が幾つも降ってくる。

跳ねて、転がって、見えなくなって。

やがて目の前がそれで埋め尽くされた。


・ ・ ・


_くん!

_ら…お、くん!


何回も繰り返し願った始まりの声が、まだ頭のどこかで聞こえている気がする。


「らっだぁ、もう朝だよ…起きてよ」


薄らと開けた視界。

白い天井に消毒のツンとした香り。

透明なパックが吊るされている点滴のやつ。

それから、少し痩せたみんなの顔。


「……ぉ、ぁ…よ…」


おかしいな、本当だったらもっとシャッキリ目覚めてかっこよくみんなを抱きしめてやろうと思ったのに、声は出ないし腕は上がらないしでみんな少しも気が付いてくれないんだから。


「ぉ、あょぉ…」

「?」


やっと気が付いたみんなが一斉に俺を見る。

みんな、随分と酷い顔してるなぁ。


「らっだぁ…?」

「…ぉ、は、ぁ……よ」


蛇口を捻ったみたいにみんなの目からどばっと涙が溢れてて思わず喉から壊れた笛みたいな声を出して笑った。

カヒュカヒュいってて情けない俺の笑い声に、みんなが笑った。

笑って笑って、おんなじくらい大泣きした。


「う…ぁ、あ…ぁぁあ…っ!!」


俺の願望で生まれたあの悪夢で見た優しい笑顔が、ずっと離れなかった。

この作品はいかがでしたか?

200

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚