琴音の言葉は、静かに律の胸に落ちていった。
「自分の心から目を逸らさないこと」――その響きが何度も反芻される。
(俺が……ほっとけないって思うのは……誰だ?)
気づけば、頭に浮かんでいたのは華の姿だった。
不器用で、失敗ばかりで、それでも必死に食らいついてくる。
時には泣いて、時には子どものように笑う、あの表情。
(桜坂さん……)
胸の奥が熱くなる。
それが何の感情なのか、まだはっきりとは言葉にできない。
けれど、確かに今までとは違う鼓動が、自分の中に生まれているのを律は感じていた。
琴音はそんな律を見つめ、穏やかに頷いた。
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