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ギルドの庭で素振りをしているとーー。
「なぁ、アレン!今日こそ依頼受けに行こーぜ!」
カイルが依頼書を手に歩み寄ってきた。
「何の依頼受ける気?」
「これだ!オオトカゲの討伐!」
「却下」
「即答かよ……なぁぁああなんでだよー!」
僕の腕にしがみつきごねるカイル。
「なんでって、まだ傷が治りきってないだろう?」
「チッチッチ……こんなもん気合いだ!っふん!」
そう言い握り拳をつくるカイル。
「それじゃ、よ」
僕は何気なしカイルの脇腹を突いてみることにした。
「……い、いてぇ 」
お腹を抑え膝をつくカイル。
「ほら、こんな状態で行ける訳ないだろ?」
「く、くそアレン謀ったな…… 」
「何が謀ったな、だよ」
脇腹を抑えるカイルの横顔を見ているとふと笑いが込み上げてくる。
「ふふ」
「な、なんだよアレン?情けねぇって言いてえのか?」
「いや、面白い顔だなぁと思って」
「はぁ!!てめぇアレン……この野郎!」
「うわ!」
カイルは僕の髪を揉みくちゃにしながらここぞとばかりに仕返ししてきた。すると、そう様子を見ていたグラムが上機嫌でやってきた。
「今日も今日とて元気だなぁお前ら!がっははは」
「マ、マスター見てないで助けてくださいよ!」
「え〜、面白れぇからやだ」
グラムは酒を片手に高みの見物を決め込んでいる。
「えー……」
「隙あり!とりゃあ!」
「うわぁ!」
視界が反転する。
「よっと」
「んで、マスター何しにきたんだよ?」
カイルは満足したのか僕の華麗な着地に見向きもせずグラムの方に話しかけていた。
「ん?病床に伏せてた奴がはしゃいでるって聞いたもんだから顔でも拝んでおこうかと思ってな!」
「なんだよそれ」
しょうもない理由にカイルが眉を潜める。
「がっはははは!でも、そんなに元気があるんだったらアリアにでも剣の指南つけてもらったらどうだ?」
そう冗談っぽく言うグラムだったが、予想外の返答に僕の心は舞い上がっていた。
(アリアさんか、確かに皆んなからの信頼も厚いしあの雰囲気……よし!)
「ま、無理だろうけどな!」
「僕行ってきます!」
「え?」
グラムがびっくりするより早く僕は駆け出していた。それを見ていたカイルが口を開く。
「あーあ、大丈夫かよマスター?あいつ本気だぞ」
「……ま、まあ当たって砕けるのも良い経験だ!」
そう汗をかきながらグッドポーズをするグラム。
「知ぃらね」
そう言いカイルもグラムを置いてロビーへと向かう。
「あのアリアさん!僕に、僕に剣を教えてください!!」
アリアは突然現れた僕に驚きつつも数秒見つめた後ふっと微笑んだ。
「ふ〜んアレン、そこまで言うならあなた剣は扱えるのよね?」
突然の問いに戸惑いながらも、僕は小さく頷いた。
「一応身を守れるくらいには……」
「なら」
アリアは興味深そうに僕の細い腕を見つめると、懐から一本の短剣を取り出しこちらに向けて放り投げてきた。
カランッ
#魔法の世界
みどりのとり
826
「拾いなさい」
「え?」
「あなたがもし冒険者として生きていくつもりなら、剣ぐらいまともに扱えないとね」
アリアの気迫に少しだけ息を飲んだ。
(なんだ、この圧は……!)
僕を見つめるその瞳が、言葉が、さっきまでの和やかな空気を 一瞬で変えた。
「さぁ、構えなさい」
ゴクリッ
誰かの喉が鳴った。
その場にいる誰もがこのやりとりを見守っていた。
「…はい!」
少し迷いながらも腰を落とし、短剣を持つ手に力を込める。
(いったい何をするんだ…? )
アリアは腕を組みながら、じっとこちらを眺めていた。
「なるほどね」
そう呟いた次の瞬間――
ヒュッ
たった一瞬、目の端に微かに腕のような物が映った。
「ぇ……?」
バシンッ!
視界が弾けた。
次の瞬間には、後方の机を薙ぎ倒し床を転がっていた。
「ぐっ……!」
(今、いったい何が起きた….!?)
「今のよく反応したわね」
(……は、反応?防げていたのか?)
「でも、今のは反応というより反射に近いわね。このままじゃとてもじゃないけど冒険者として生き残れないわ」
「……っ」
僕は軋む体を無理やり起こし、ゆっくりと立ち上がった。
(そんなことは、わかってる!だからーー)
「でも!」
アリアが突然大声を上げる。
「あなたは諦めきれないのでしょ?」
「……え?」
その一言がまるで僕の心を見透かしているようだった。
「ぼ、僕は強くなれますか?」
「えぇ、その強い意志さえあれば必ずね」
そっと僕に差し出される手が僕の心を優しく包み込だ。
(こんなこと言われたの初めてだ……!)
涙で霞む視界を拭い、僕はその手を握りしめ強くなることを誓うのだった。
ワァァァアアア!!!!
静かに見守っていた全員が割れんばかりの声で騒いでいた。
「おいマジかよ! アリアさんが弟子を取るなんて!!!」
「すげぇことが起きたぞ!!」
「あの子、やばいことになったな……」
「な、なにが……?」
僕があまりの盛り上がりに驚いているとカイルが嬉しそうに駆け寄り肩を組んできた。
「おぉぉぉ!アレンお前って奴はよぉ!」
「え?なんでそんなにはしゃいでいるのさ?」
僕が周りとのテンションの差に困惑しているとアリアが声をかけてきた。
「ふふふ、まったくそんなにはしゃがなくてもいいのに」
すると、ギルドの男が興奮気味に話し始めた。
「だ、だってよ!今までも何千万人と弟子に志願しに来たやつらがいたんだぜ!それを一瞬で門前払いだったあのアリアがってなるだろ普通!!」
確かに彼女の纏う気配とさっきの圧倒的な動きを思い出すと、ただの冒険者ではないことは僕にも感じ取ることができた。
(だからみんなこんなにも)
アリアが顎に手を置き少し考えていると、一瞬でその場が静まり返り息を飲む。
「そうね、強いていうならただの気まぐれかしらね」
ガタッ
その一言で全員が転げ落ちてしまった。
「な、なんだよそれ!」
カイルの一言を皮切りに大ブーイングが巻き起こり、散り散りに去っていいった。
「まったく何が不満なのかしら?」
やれやれといった表情のアリアを見ながら僕は未だに信じきれずにいた。
僕は拳を握りしめ、深く息を吸った。
「あ、あのアリアさんさっきの気まぐれってどういう……」
「あぁ、ん〜なんて言えばいいのかしら?……でも、私はアレンが強くなるって直感で感じたの。だから教え導くって決めたの!こんなのでいいかしら?」
アリアは少し困ったように僕の顔を覗き込んできた。
「いえ、それだけで十分です」
僕の胸が温かくなるのを感じた。
「そしたら早速明日から特訓開始よ!今日はしっかり休むように」
「はい!」
こうして、僕は”最高の師匠”を得ることができたのだ。
翌朝。
ギルドの裏手にある訓練場に集合し、そこでアリアとの修行の日々が始まることとなった。
「まずは基礎となる身体づくりからやるわよ!しばらくは剣を握らせないからそのつもりで」
「えっ!?」
「なぁにぃその顔?剣を振るにも筋力と体力がないと話にならないわ、だからまずは走り込みと筋力強化よ!」
「は、はい…」
「てことで、まずは100kmね」
「え?」
「さぁ、早く行く!!」
僕のきょとんとした表情をよそにアリアが木剣を構えて不敵な笑みを浮かべる。
「っはいぃ!」
こうして、師匠との地獄の特訓が幕を開けたのだった。
一方、その様子を見ていたカイルは少し離れた場所からクスクスと笑っていた。
「ぷぷぷぅ、アレンのやつ大変そうだな!さてと、俺は飯でも食ってくるとするか」
「カイル、そこで何してるのかしら?」
カイルが呑気に眺めていると、数十メートルは離れていたはずのアリアが背後に立っていた。
「え…!い、今からちょっと腹越しらいを……」
冷や汗ダラダラなカイルはその場をすぐさま離れようと駆け出した。
「んじゃ!」
だがもう遅い。すでに進行方向には光の速さで先回りしたアリアがカイルの頭を鷲掴みにし不敵な笑みを浮かべていた。
「あ・な・たもやるのよカイル」
「ぎゃぁぁぁぁ!なんで俺まで!?」
完全にとばっちりのカイルを眺めているとアリアの手が輝く。
「あ、あれ?体が軽く?」
「これで準備万端ね、さぁ始めましょうか」
「い、いやぁぁぁぁぁああ!!」
カイルの絶叫が響きわたり、僕たちの地獄の特訓が始まるのだった。