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透ける様なガラス細工の様に綺麗な髪、純度の高いルビーみたいに澄んだ瞳。
ぷっくらとした形のいい唇。神々しく濡れた様に艶やかな髪。
天使でありながら悪魔の赤い瞳の色を継いだ君は…只々僕の心を揺さぶった。
「僕はね。毎朝君の髪に花冠を被せるのが好きなんだ。君の花冠を被せた時の微笑む様な笑みが本当に大好き。だからね。ずっと僕は君に救われたんだ。 性、いや、掟であったこの役職は僕は嫌いだったんだ。でもね。君のおかげで好きになれたんだ。 本当にありがとう」
サラサラとした柔らかい髪を梳かしながら僕は君に話しかける。
毎日毎日同じ会話を繰り広げる。 でも君からの返答は決まってない。 声そのものがないと言わんばかりに。
ジジジとノイズの様な嫌な音が走る。 視界の端で黒く歪な腕が、指がセシルに絡みついていた。
君の存在が歪む。
僕はずっと気づかないフリをしている。
このノイズが君から出ていて君の存在が世界にとっての異端であり世界から抹消される存在であることも、 君は本来消えてしまっていた事も。
早朝に咲いた、ふわりと生気を帯び、美麗に咲き誇る花々で造った花冠を君に被せる。 瞬く間に部屋に仄かな光が放たれる。歪んだ存在だった君は再びセシルという存在に戻る。
瞬きをし、鏡に映る君を見た時には黒い腕は消え去っていた。
ノイズも消失し、辺りは耳鳴りがしそうな程の静寂に包まれた。
ふと君が振り向く。 その顔は黒く塗りつぶされたように見えることはない。
「#$%&”……ゅ、リア、…ス」
かろうじて君は僕の名前を紡ぐ。 …君はもう微笑んでくれない。…見えない。
目の前にいる君は無機質で平坦だ。 何も考えず感情もない。まるで人形のように。
皮肉なことに僕が美しさを保っている長い髪がそれを引き立てる。
今日で君が死んで36500日。
もう嫌になったんだ。 この人生が、君のいないこの人生が。
ごめんね。 僕は果物ナイフを手に取り、君に振りかざす。 切れ味のないナイフは切るというよりも肉を抉り取ることしかできなかった。
僕は最初に羽をもいだ。 君の美しい羽が地へと落ちる。
地のふれた羽は黒く澱み穢れきってしまった。 澱みきった羽の切り口からは血溜まりができていた。
次は腕を狙った。 君の真珠のように白い腕にいくつもの抉られた傷がついてゆく。
…君は本当に人形になってしまったんだね。
金切り声を上げることなく現状を受け入れ表情を歪ますことのないその姿は人形の様に凛々しく 美しく、そして、歪だった。
僕はその後、左腕、両足、胴、腰、首その順で僕は君にナイフを振りかぶった。
…辺りには抉り取られた肉片と血飛沫が飛び散っていた。
**********。
『それ』が落ちる音がする。 その直後、水音が響き渡る。 僕は『それ』を顔の高さほどのところに軽々しく持ち上げた。 長い糸を無数に持った『それ』は重く決して軽いと言えるものではなかった。 君は相変わらず軽いね。 顔を覆い尽くす黒いモヤに僕は嫌気がさす。 なければいいのに。
もう一度君の顔、見たいのに。 唇らしき箇所の僕はキスをした。
刹那、どれほど願っても消えなかったモヤが晴れた。
僕は目を見開いた。 僕の感情は欠落してしている。理由はわかりきっている。 君がいないとダメだから。感情は君がいるからこそなるんだから。
君がいない世界で感情なんてないと思ったのに。 …思っていたのに。
…君はここにいたんだね。
モヤのはれた顔は君のものでそれは生きていた証であって僕が見ようとしなかったもの。 虚構であったはずの彼女は現実であり、理の証。 僕が本来あるべく姿に戻るための鎖。 足元から鎖が伸び、絡みつく。 戻るのか。戻るのか。 あの平坦な世界に。人形の様な僕に。
知ってしまった。悟ってしまった。 だめだね、僕は。 ごめんね。セシル。 僕を憎んで。 君を無惨に殺した僕を。 君の美しい羽をもぎ、肉を抉り、首を落とした僕を。目を抉り出し僕の目と交換した僕を。 どうか憎んで。 僕をずっと思っていて。 憎しみでいいいの。 お願いだから。
…思っていて? 好きだよ。ずっと、ずっと………。
ーーーー。
その日、白い髪と黄金色の瞳を持った天使は赤い瞳となり、元の役職へと戻っていた。
季節の神を司る彼は季節の神々に愛を囁き口説き落とし翻弄させる。 その後花冠を被せその時の季節を決める。歪な愛を用いて神々に『お願い』をし、この世界に季節をもたらす。 自身の意思とは関係なく理に合わせて口説き出す。 それらは彼の掟であり性である。 それはひたすら世界が終わるまで繰り返される。
悪魔の様な瞳となった彼は本来、代替わりをしなくてはならない。
しかし、神々は彼を解放しなかった。 理由は簡単だ。
神々が彼を気に入っていたから。 彼は類を見ないほどの美貌と、口説き上手で誰からも愛されていたから。
ただ、彼はずっと役職に縛らている。これからもずっと。
彼が職場に戻った日から行方不明になった天使がいた。その天使の名はセシル。ユリウスの双子の片割れだった。 風を司る神に仕えた天使の1人で、 彼に似たその顔は類い稀なる美貌を持っていた。 そのせいなのか一部では、誘拐か捕虜目的だと噂されている。ただ、誰も、事実を知るものはいない。
何故なら関係者であったはずのユリウスは記憶を失い、 人形のように神々に愛ででもらっているのだから。
ーーーーーー。どこかの掲示板にて。
探しています。
名前 セシル 齢500歳 特徴 白い髪、『深い青色』の瞳を持つ美しい容姿をしておられます。
また、ユリウス様の双子の片割れでして、ふとした表情が似ておられます。
風の神の使いで服に紋章が刻まれておられます。
見つけた方は大聖堂までお申し付けください。
天使連合組合からのお知らせより。
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