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颯懔の手伝いもあって、蟠桃会本番までには紅花の分も含めて仕事は全て片付いた。

紅花の仕事が終わっていることに可馨をはじめ、他の仙女達は凄く驚いていた。終わらないと思っていたなら、何であんなに仕事を押し付けたのか。意味不明だ。



今日は蟠桃会当日。



朝早くからパタパタと、皆準備に忙しい。

遠くから来る招待客は、何日か前から西王母の屋敷に滞在している事もあって、私も西王母の屋敷で寝泊まりしてお手伝いをしている。


こういうお祭りのソワソワする感じ、好きだなぁ。


村にいた頃も、龍神祭を毎年やってたっけ。

近隣の村からも人が集まってきて、海岸でお焚き上げをして、そこで振る舞われる料理が美味しくて……。

みんな、元気にしてるかなぁ。



物思いに耽りながら身支度を整えて、食堂へと向かった。

先に食事をしていた紅花と挨拶を交わして前に座ると、私の着ている服を見て微笑んだ。


「素敵な服ね。颯懔がくれたの?」


「え? はい、そうです」


なんで分かったんだろうと小首を傾げていると、自分の鼻をトントンと指して見せた。


匂いでわかったんだ!


颯懔が蟠桃会に着ていくようにと、私が西王母の屋敷で寝泊まりする前に新しい服を手渡してくれた。

華美過ぎず、地味すぎず。上質でありながらも道士の域から逸脱し過ぎない適度な服。

誰かに相談したのかもしれないけど、颯懔は結構器用だ。


「明明ちゃんによく似合ってる」


「ありがとうございます。紅花さんの服も素敵ですね」


「うふふっ、奮発しちゃった」


のんびりお喋りしながら食事を楽しんでいる暇はないので、パパっと食べ終えた。食堂から出ようと2人で歩いていると、カシャンっと食器がぶつかる音がした。


「あっ! ごめんなさい。私ったら余所見していたみたい」

紅花の服にはお茶の茶色い染みが広がっている。


よりによって黒茶。


白茶ならまだしも、黒茶の染みを取るにはしっかりと洗わないときっと落ちない。


「いいえ、大丈夫です」


「そう? 許してね」


人の服を汚しておいて、ぶつかった仙女の足取りは軽い。周りで様子を見ていた人達も、隠すように口元を抑えている。


わざと。じゃ、ないよね。


一瞬嫌な考えが頭をよぎったけれど、頭を降って邪念を消した。


「新しい服に着替えなきゃね。まああたしは招待客じゃなくて配膳係だから、普段着でも構わないわね」


「紅花さん、私、服をもう一着持っているんです。来てください!」


肩を落とす紅花の手を引いて、自分が寝泊まりしている部屋まで連れてきた。


大事に閉まっておいた布包みを開けると、中からもう一着、上質な余所行きの服が出てきた。


「実は師匠が不測の事態があった時用にって、二着用意してくれていたんです。ほら、私おっちょこちょいだから」


今こそ不測の事態だよね!

紅花に汚れた服を脱いでもらって、新しい服に袖を通してもらう。淡い黄色系の茶髪と合わせたかのように、深い緑の卡其緑カーチリュー色の服が驚くくらいによく似合っている。


こういう落ち着いた色合いは、私じゃきっと似合わない。


まさか紅花の為に用意したのかな。



……なんてね。紅花の服が台無しになる事なんて、いくら天才的な仙術使いと言われる颯懔だって未来が見える訳でもなし。分かるはずない。


「紅花さんすっごくよく似合ってます!」


「借りてもいいの? あたしが着ると、またダメにしてしまうかもしれないのに」


「ダメになったらまた買ってもらえば良いんですよ! 師匠は結構、お金持ちみたいなので」


イヒヒと笑ってみせてから部屋を出て、持ち場へと急いで向かった。

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