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第十二話:雨の夜、心の距離
昼過ぎから空はどんよりと曇り始め、放課後にはポツポツと雨が降り出していた。
真白と陽翔は傘をひとつだけ差して、肩を寄せ合いながら駅まで歩いていた。
「…ねぇ、先輩」
「ん?」
「今朝、先輩の携帯にずっと通知来てたけど…誰かから?」
真白は一瞬だけ歩みを止めたあと、ふっと笑って答えた。
「んー、昔のクラスメイトだよ。大したことない」
「…ふーん」
その答えに、陽翔はうっすらとした違和感を覚えた。
“嘘じゃないけど、本当の全部じゃない”…そんな感じ。
⸻
──帰宅後、真白の部屋
雨音だけが部屋に響いていた。
陽翔はベッドの上で膝を抱えて座っていたが、ずっとそわそわして落ち着かない。
真白はデスクでレポートの資料を見ていたが、陽翔の様子に気づいていた。
「…お前、さっきから変だな?」
「……変じゃない」
「嘘。絶対なんか思ってる顔だぞ」
陽翔はしばらく黙っていたけど、耐えきれなくなったように言った。
「さっきの“昔のクラスメイト”って…本当は元カノとかじゃないの?」
真白は目を見開いたまま、数秒黙っていた。
その沈黙が陽翔の不安をさらに煽る。
「……やっぱり、そうなんだ」
「違う。いや…元カノ“だった”のは事実。でも、今はただの知り合いだ」
「じゃあ、なんで隠そうとしたの…?」
「お前がこんな顔するって分かってたから」
その一言が、陽翔の胸にぐさりと刺さった。
⸻
──夜、ひとりきりのリビング
陽翔は黙って部屋を出て、リビングのソファに横になった。
真白はその背中を追いかけず、ただドアの前で立ち尽くしていた。
しばらくして、真白はそっとリビングの電気をつけた。
陽翔は目を閉じたまま、ぽつりとつぶやく。
「…僕、先輩のこと信じてる。でも、自分に自信ないんだ」
「なんで?」
「だって、僕って…昔の恋人には敵わない気がする」
その言葉に、真白は陽翔の隣に座り、静かに話し始めた。
「元カノに感じたことなんて、今のお前に比べたら、何も響かなかった。
でもお前といる今は、毎日、心臓がうるさいくらいにドキドキしてるんだよ」
陽翔はゆっくりと真白の方を向き、その目を見つめた。
「……ほんとに?」
「嘘じゃねぇよ。お前は俺にとって、特別すぎるくらい特別。
比べる相手なんて、いねぇ。俺は、お前だけが欲しい」
その一言で、陽翔の目にうっすら涙が浮かんだ。
「…なら、ちゃんと言ってよ。黙ってたら、分かんないじゃん…」
「……ごめん。次からは、ぜんぶ話す。ぜんぶ、お前にだけ」
真白は陽翔をぎゅっと抱きしめ、その髪に唇を押し当てた。
「愛してるよ、陽翔」
「……僕も、愛してる」
⸻
雨音が静かに止む頃、ふたりはまた一つ、大きな壁を越えていた。
どんなすれ違いがあっても、こうして何度でも確かめ合える。
それが「ふたりで生きる」ってことなんだと、今、やっと分かった気がした。