第十三話:その顔、俺だけに見せて
雨があがった翌朝。
窓の外には青空が広がり、久々に射し込む陽の光が部屋を柔らかく照らしていた。
真白が目を覚ますと、すぐ隣で陽翔が気持ちよさそうに眠っていた。
無防備な寝顔に、つい笑みがこぼれる。
「…ったく、可愛すぎんだろ」
ぼそっと呟いて、真白はそっと陽翔の頬に触れた。
その指先のぬくもりに反応して、陽翔が目を細める。
「…ん…先輩、おはよ」
「おはよ。まだ寝てていいのに」
「んー……起きたら先輩が隣にいたから、もうそれでいいやって思って」
「朝から甘すぎ」
そう言いながらも、真白の声はどこか嬉しそうで。
陽翔もくすっと笑って、真白の胸元に顔を埋めた。
⸻
──登校前の準備時間
陽翔が制服のシャツのボタンをかけていると、背後から真白が近づいてきて、ふと手を伸ばした。
「手ぇ止めんな。貸せ」
「え?」
「…俺がやる」
言うが早いか、真白は陽翔のシャツのボタンをひとつずつ丁寧に留めていく。
指先が肌に触れるたび、陽翔は顔を赤くして小さく震える。
「…こ、こういうの、やめてよ…変な気分になる」
「それ、俺にとってはご褒美でしかないんだけど」
「……っ、バカ」
最後のボタンを留めたあと、真白はふっと息をかけるように陽翔の首筋にキスを落とした。
陽翔は肩をすくめて真っ赤な顔を隠す。
「…先輩のばか」
「お前が好きすぎる俺が悪い」
⸻
──放課後、寄り道の帰り道
ふたりはスーパーで晩ごはんの材料を買って帰る途中だった。
陽翔が突然、真白の袖を引っ張る。
「先輩、ちょっとこっち」
「ん、どうした?」
陽翔は近くの自販機の横に真白を連れていき、人目がないのを確認すると――
「…っ、ちょ、陽翔?」
唇を重ねた。
真白がびっくりして目を開けると、陽翔はにやりと笑って離れた。
「さっきの仕返し」
「仕返しって…お前な、こんなとこで…」
「…でも、先輩だけに見せたい顔って、あるから」
ぽつりとこぼしたその言葉に、真白の胸がドクンと高鳴る。
ふだんは照れ屋な陽翔の、たまに見せる“攻め”の一面。
「……ほんと、お前ってずるい」
「んふふ、先輩が俺に甘くなるの、知ってるから」
「もう、俺の負けでいいよ」
ふたりは手を繋いだまま、ゆっくりと帰路を歩き出した。
⸻
──夜、ベッドの中
布団の中で向かい合って横になる。
手と手が触れ合って、ただ静かに呼吸を合わせる時間。
「先輩」
「ん?」
「今日みたいな日、ずっと続くといいな」
「続けるよ。お前といる限り、毎日更新するくらいに幸せにする」
「…じゃあ、信じてる」
陽翔はそっと目を閉じて、真白の胸に身を預けた。
真白もその身体を抱きしめて、何も言わずにその温もりを感じていた。
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