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人と、神と怪異が存在するこの世。
一人の男はまたも、神界から降段してきていた。
一つのこの世界に、三つの種が並行して生きていくというのは、そう簡単なものではない。
ただ、この男がまたも貶謫されてしまったのは、それだけの理由ではないだろう。
降段してくるのは、これで三度目。
上天廷は、またか と言わんばかりの顔でまたも見送った。
三度目の貶謫、すなわち神ではなくなるということ。
昔は神界の最上権力者という「 上神天花」だった彼は、今やただの庶民。
この現実を受け止めきれずにいたのは、彼
ではなく信者でもあった。
彼の名はリンデェン。
一人の女弟子と共に、人界へ降りてきて 一日が経った。
まだ、実感が湧いていないのかもしれないが
そこまで慌てている訳でも焦っている訳でもないようだった 。
これからどうしていくか、二人は話し合いを始めた。
「デェン師、これからどうして往こうと考えているのですか?」
彼女の名は、リンシィー。
リンデェンの一番弟子だった。
「そうだな……天帝から依頼を受けている。
せめてもの救いかもしれない。この小屋を片付けたら、依頼を遂行しようか。」
そういうとリンシィーは深く頷き、立ち上がると部屋の破損部分を確認し始めた。
この古家は、神界から降りてきて、ほぼ一日探し回った末唯一見つけた陋屋。
希望の光でもあった為、躊躇うことなくこの
古家を仮宅としたのだ。
ただ、中を見れば悲惨なもので、壁紙や屋根の所々に穴や破損部分があったり、
蜘蛛の巣や、埃、木が腐っている部分など
中々なものだった。
でも、二人はこの唯一の古家に決めた。
直すべき所を確認していく。
月日をかけて、修理しようという方向に話はまとまっていた。
休憩することなく、二時刻ほどたっている。
それに気づくまで、ずっと立ちっぱなし歩きっぱなしだった。
リンデェンがリンシィーを呼んだ。
「そろそろ休もう。夕食の準備をするから手伝ってくれる?」
そういうと二人は、端が崩れかけていた台所らしき場所を使って、料理を始めた。
神となるもの、ご飯というのは食べなくても
正直行きていけた。
でも、今となってはただの人。
強いていえば、武に長けた人。
昔の上神天花だった頃は、戻ってこない。
それは両肩理解している事実だった。
二人は、向かい合って夕食を食べた。
すると、リンシィーがリンデェンに聞く。
「先程の依頼とは、どういった内容なのですか?」
食べながら聞くリンシィーを見て、相当腹を空かせていたのだろう、と思う。
「ああ、言っていなかったね。」
近くに置いていた巻物を手に取って、リンシィーに向かって広げた。
「ここに書いてある通りだ。 不死の花が咲くという山麓へ行き、事実関係を明らかにするか、不死の花を持ち帰るか。」
詳しいことが記されているが、どれも出鱈目っぽく、なんとも信じ難い依頼だった。
ただ、今はこれに試みるしかない。
それはリンシィーも分かっていた。
「不死の花ですか……私も聞いたことがありますが、見た事も無ければ、見たという証言も聞いたことがありません。 」
リンシィーが少し俯く。
リンデェンもそれに同意した。その後
ただ、
と言葉を続けた。
「私は見た、という証言を聞いたことがあってね。嘘だと思う?」
俯いていたリンシィーの顔が上がった。
「それは、いつの話ですか?」
確かに、相当な年を生きているリンデェンだから、年月は重要だ。
「私がまだ上神天花だった頃の話だ。その証言は、私がよく信頼していた人から聞いた。 」
リンデェンが上神天花だったとき、毎日、沢山の民から捧げ物が送られてきた。
その中、一人の思い入れのある男からこんな話があった。
俺はもう長く生きられない。歳も歳だからな。
ただ、病態が悪化した。
これからどれだけ生きられるか、もうわかったものでは無い。
この男は、リンデェンが小さい頃から傍にいてくれた人だった。
名は、ユーミン。
ある日、ユーミンから一通送られてきた。
俺は貴方様に一目でも不死の花を、目にして欲しかった。
だが、叶わないようだ。
未知の花とも呼ばれる不死の花を、どうかこの先一目でも見て欲しい。
それは美しいことだ。
俺が見せることは出来ないが、これから先不死の花を目にかかるのなら、 それが俺の本望であり、死に対する報いだ。
忘れないでおくれ。 ユーミン
これがユーミンからの最後の言葉だった。
最期すら、直接言葉を聞いてやれなかった悔いが今でも残っている。
そしてそんな彼からの言葉を、今でも信じている。
だから、この依頼を受けたいと思った。
不死の花。
見つけるか、ないことを証明するかで 天帝から報酬を貰える。
私情を挟むが、どうしてもやりたかったのだ。
「私は彼の言葉を信じている。だから、不死の花の存在は否定しない。
でも、それをリンシィーに押し付けたいとは思わないよ。」
これを聞いたリンシィーは、何かを少しの間考え、頷いた。
「分かりました。この古屋を直したら、その依頼を遂行しましょう。」
リンシィーは、納得してくれたようだ。
ユーミンの言う不死の花を、どうしても見たかった。
2人は夕食を済ませると、話し込んだ。
これから困ることが沢山ありすぎる。
食ももう残り少なければ、金銭もだった。
寝床も一つしかない為、若干気まづい思いもするだろう。
いろいろ話した結果、とりあえず今日明日は
ここらで静かに過ごそう だった。
真夜中、満月が辺りを少し照らす頃、リンデェンが夜風に当たっていると、
どこからが風鈴のような音が聞こえた。