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「前に読んだ洋書の絵本を持って来た、覚えているだろうか?」
「もちろんです」と、頷く。「女の子が幻想世界を渡り歩くんですよね、可愛らしくて大好きなお話で、」と、そこまで話したところで、ちょっと感じたことを、クスッと小さく笑って口にした。
「絵本を読みながら寝かしつけてもらうなんて、なんだか子どもみたいで」
「……子どももいるだろう、ここに」
彼が私のお腹に手を当てがう。
「そうでしたね。じゃあ胎教にもなりますね」
当てがわれた彼の手に、自分の手を添えると、優しい気持ちに満たされていくのを覚えた。
そうして、流暢な英語で本を読む耳触りのいい彼の声に、いつしか瞼は下りて、私は心地のいい眠りにうとうとと落ちていった……。
──臨月を迎え、いよいよ出産の刻が迫った。
初産のため、産まれるまで一晩をかけて、元気な双児が誕生した。
会社から急ぎ駆けつけた貴仁さんが、個室内のベビーベッドに並んだ赤ちゃんたちに目を落とす。
「……愛おしいな」
「うん」と頷いて返す。
「ありがとう、彩花……」
ベッドに身体を横たえる私の髪を、彼が愛おしげに撫でる。
「ううん」と首を振って応える。
「ありがとうって言いたいのは、私もだから。あなたがそばで支えてくれたから、初めての出産にも心強くいられたもの」
「そうか、私が支えになれたのなら、よかったと思う」
彼が口にして、
「疲れただろう、もうおやすみ」
私の瞼に、そっと手の平を当てがうと、幸福な想いがじんと胸に沁み入って、産後の疲れた身体を安心して休めることができた……。