テラーノベル
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……佐藤さん」
鼓膜を直に撫でるような、低くて、どこか冷ややかな声。
「あ、えっ……、はいっ!」
裏返った自分の声が、静かな教室に場違いに響く。
彼は表情ひとつ変えず、床に転がった私の消しゴムを、長い指先でひょいと拾い上げた。
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佐藤 楓花 さとう ふうか
💞:甘いの~
💔:苦いの
赤葦 京治 あかあし けいじ
💞:菜の花のからし和え
💔:特になし
梟谷セッターさんとの恋_。 Start
窓から流れ込む五月の風は、図画工作室の絵の具と、湿った土が混ざり合ったような、この季節特有の匂いがした。
カーテンが不規則に膨らみ、私の頬を、生ぬるい布の端がかすめていく。
視線の先には、窓際の席に座る赤葦京治くん。
彼は、まるで静止画のように動かない。
カチッ、と彼がシャープペンの芯を出す、硬質な音。
カサッ、と薄い紙が指先で捲れる、乾いた音。
喧騒に満ちた休み時間の中で、彼の周りだけは、深い水の底に沈んでいるかのように静まり返っていた。
「……っ」
思わず、肺の奥までその空気を吸い込んでしまう。
かすかに漂う、石鹸のような清潔な香りと、彼が着ている制服の清潔な匂い。
斜め後ろの特等席。
ここからは、彼の斜めからの顔が見える。
キーン――コーン――。
不意に鳴り響いたチャイムの音が、鼓膜を震わせた。
重厚な金属音が、私の淡い白昼夢を無慈悲に切り裂いていく。
ガタガタ、と椅子を引く無機質な雑音。
その中で、彼がふいに、ゆっくりと首を巡らせた。
「……佐藤さん」
鼓膜を直に撫でるような、低くて、どこか冷ややかな声。
「あ、えっ……、はいっ!」
裏返った自分の声が、静かな教室に場違いに響く。
彼は表情ひとつ変えず、床に転がった私の消しゴムを、長い指先でひょいと拾い上げた。
彼が私の机の端に、それを置く。
コト、と小さな音がした。
指先が触れそうで、触れない。
けれど、彼が通り過ぎた瞬間に残った、わずかな空気の揺らぎが、私の肌を冷たく撫でた。
「……ありがとう、赤葦くん」
消しゴムに触れると、そこにはまだ、彼の指先のひんやりとした感覚が残っているような気がした。
今の私は、まだ知らない。
この心地よい静寂が、いつか、息もできないほどの重い沈黙へと変わっていくことを。
五月の眩しい日差しが、私の視界を真っ白に、彼は逆光で黒色へと染まっていた。
コメント
2件
ふはは 好みだぜ!
わーーー好きだねありがとう🫶