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(桁違いの力! こんなの敵いっこないじゃん)
かっこつけて、助けてあげるなんて言ったのに、全くトワイライトに届いていない。
リュシオルは、光の立方体で隔離しているから安全だと思うけど、私のイメージが途切れれば、それまでだ。だからこそ、慎重にトワイライトに近付かないといけないのに。
(近づけさせてくれない!)
混沌の力は、人の負の感情だ。だから、トワイライトは今私達を拒絶しているのだろう。あの某人造人間アニメのあれみたいな……
(って、こんなこと考えている暇ないのに)
それでも、幾らか余裕があったのは、自分が強くなったと認識しているからだろうか。今の私なら大丈夫と、自信がついたからだろうか。
どっちでもいいけれど、まずは、トワイライトに近付くことからだ。
(リースがいてくれるから心強いけど……)
二人で、攻撃をかわしながら進んでいるけれど、一向に進めていない気がした。
そこまで広くない部屋だからか、動ける範囲は狭いはずなのに。けれど、想像通りこの城全体が、トワイライトの心の中を体現しているようで、部屋の広さから何まで、自由自在に変わっていく。変幻自在な空間。
だからこそ、足場も不安定だ。
「エトワール、大丈夫か」
「私のこと甘く見ないでよ。大丈夫だって。それに……」
「それに?」
私を気遣いながら戦ってくれているリースを見ていると、矢っ張り心が温かくなってくる。アルベドは私のことを気にしながらも、自分が勝つことだけを考えて戦っていた。だからこそ、こっちも死ぬ気でそれに食らいつけた。だから、言い相棒、パートナーだと思った。
けれど、リースは違う。最高のパートナーというよりかはもっとこう……言葉では表しきれないけれど、リースとアルベドは違うと思った。別にどちらがいいというわけではないし、どちらがやりにくいとこでもないけれど。
「……アンタがいてくれて、本当に心強い。ただそれだけ」
「そうか……俺も、お前がいるから戦える」
何この展開!
と、心の中で叫びつつ、まるで少年漫画みたいだと思った。これは、乙女ゲームじゃなくて少年漫画の世界? いや、そんなことないし、あり得ないけれど。
推しの声で、顔でそんなこと言われたらオーバーヒートしてしまいそうだ。と心の中でまた叫ぶ。
しかし、攻撃は留まることを知らなかった。
バチンと無知のように打ち付けられる黒いもや。もやは形、質量を増して攻撃してくる。これ以上近付かないでと、こちらに向かって迫ってくるのだ。空間も歪んでいき、足場が崩れた。
(このままじゃ、リュシオルが危ない)
いくら、全方位で守っていたとしても、この空間が歪みきってしまったらどうなるか分からない。その前に、この城から彼女だけでも避難させられれば……
「リース」
「何だ、エトワール」
「ルーメンさんって今どこにいるか分かる?」
「ルーメン? 何故だ」
ふと、リースがこちらを向く。
そもそも、何故リースがここにいるんだという話から始まるんだが、彼の近くなら安全だという確証がある。リースの補佐官だし、しっかりしているし。いや、ここまで言うと、曖昧すぎる理由かも知れないけれど。
それでも、リュシオルをここから避難させて保護して貰えるなら、ルーメンさんが適任かと思った。それを察したのか、リースは、険しい顔になる。
「というか、アンタどこから来たの?」
「俺は、転移魔法でここに来た」
「転移してきたって事?」
「転移させられた……という、言い方の方が正しいな」
カキン……と、もやをはじき返してリースは言う。
その言い方からすると、誰かに転移させられた……ようだった。でも、誰に? 次にそんな疑問が浮かんできた。
(誰か、この中にいるの?いいや、でもここは、今トワイライトの心の中だし……)
あの肉塊や、リースが暴走した時みたいに、ここは人の心の中を体現しているのだ。だからこそ、この中に内通者がいるという可能性は考えにくい。
「さあ、誰かは知らないが。黒い魔方陣だったな……大方、予想はつくが」
「え、誰? まだ、中に敵がいるって事?」
「いいや、そうじゃない。混沌自ら俺をここに呼び寄せたんだ。俺事潰すきか、あるいは転移途中の闇の中に沈める算段だったか」
「……つまり、アンタはまた洗脳されかけたって事?」
「酷い良いようだな……俺が、そんな簡単に洗脳される奴に見えるか?」
「み、見えないけど……」
いや、一回暴走してるじゃない。とは、口が裂けても言わなかった。こんな所でもめたくないし、リースの気分を害したくなかった。私にも悪影響が出る。
けれど、ちらりとみたリースは不満げながらも、清々しい顔をしていた。そりゃそうか、一度絶望を味わって、堕ちるところまで堕ちた人間だから。だからこそ、もう同じように堕ちないと。
リースは強くなったんだと思った。
「何だ、その笑顔」
「いいや、リースは変わったなあって思って。私の事好きなのは変わってないみたいだけど、それでも、前のアンタより、私は今のアンタの方が好き」
「……ッ、そうか」
と、リースは何か気づいたような顔でそう返した。
変なこと言ったかなあト思ったけれど、自分で言ったことを覚えていないので仕方がない。
(とは、言えないけどぉ……)
何度か、リースに心の中で謝りつつ、目の前の敵を見る。
もう、トワイライトの原型がない。いいや、もやで姿が見えなくなっているのだ。これは、混沌と長いこと一緒にいたせいか。それとも、別の。
(そんなことは関係無い。どれだけ離れていても、死んでからも私の子とを思ってくれていたとしても……彼女を助けることには変わりないのだから)
そう思いながら進んでいく。そして、ふとあることに気がついたんだ。
「……っ」
「どうした、エトワール」
「う、ううん。何でもないの……何でも」
少しだけ足が止る。
エトワールストーリーの全容を聞いていないからどうなるか分からないけれど、私には予想がつかないけれど、エトワールが主人公になってトワイライトが敵になった世界線だったと仮定したら、トワイライトは死んでしまうのではないかと思ってしまったのだ。
(そんな、そんなことないよね……)
ヒロインストーリーでは、トワイライトが闇落ちしてしまったエトワールを浄化して世界を救ったという話になっている。エトワールと混沌が完全に融合してしまって手の付けようがなくなってしまったからだ。
だから、そうするしかなかった。エトワールの自我なんて残っていなかったから。
今のトワイライトはまだ自我がある状態だ。でも、混沌がトワイライトの身体を乗っ取ってしまったら? そしたら、もう取り返しのつかないことになるのではないかと。
冷や汗が流れる。
このまま戦い続けて良いのだろうかと。もしかしたら、最悪のエンディングに向かっているんじゃないかとすら思った。けれど、戦わない選択肢はない。
リュシオルに聞くべきなのだ。エトワールストーリーの全容を。でも、この距離からじゃ無理だ。
「エトワール、気をつけろ」
「あ、うん。ごめん」
(何を迷ってるの。助けるって決めたじゃん。結末がどうなるとかより先に動いて)
私は自分の身体にそう言い聞かせる。でも、私の身体は動かなかった。そういう世界が見えてしまったから。そうなってしまうかも知れないって言う未来を視てしまったから。
私は、トワイライトを完全には救えない?
「エトワール避けろ!」
リースの声が私の耳を貫いた。
何かと思って顔を上げれば、もやがそこまで来ていた。私を手招きするように、かと思えば、目の前で飲み込むように大きくなった手は、私の身体を飲み込んだ。
あの感覚。前にも感じたあの感覚が身体の中に入り込んでくる。思考回路を止めて、私を闇の中に落としていく。
「お姉様やっと二人になれましたね」
そんなトワイライトの声を聞きながら、私は闇の中で意識を手放した。