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第57話 〚交錯する思惑〛(利用される感情)
恒一は、
人混みの外れで立ち止まっていた。
(……二人きりになる方法)
頭の中で、
何度も同じ考えが回る。
その時。
少し離れた場所に、
見覚えのある後ろ姿があった。
姫野りあ。
(……ああ)
恒一は、
すぐに理解した。
――この子は、
“自分を可愛く見せること”に必死なタイプだ。
そして、
“見た目に弱い”。
りあは、
まだ恒一に気づいていない。
恒一は、
ゆっくりとマスクを外した。
そして、
自然な距離まで近づいて、声をかける。
「……こんばんは」
「え?」
振り向いたりあは、
一瞬で固まった。
(……イケメン)
それが、
顔にそのまま出る。
「え、あの……」
急に声が高くなる。
「花火、見に来てたんですか?」
「うん」
恒一は、穏やかに笑った。
「一人でね」
その笑顔に、
りあの心は一気に傾く。
「……一人なんて、寂しくないですか?」
距離を詰めてくる。
(……分かりやすい)
恒一は内心でそう思いながら、
あえて少し視線を逸らした。
「本当は……」
低く、意味ありげに言う。
「気になる人がいるんだけど」
「えっ?」
りあが身を乗り出す。
「誰ですか?」
恒一は、
さりげなく視線を動かした。
――橘海翔の方へ。
「……あの人」
「澪のそばにいるから、近づけなくて」
その瞬間。
りあの表情が、
ぴくりと歪んだ。
(やっぱり)
りあは、
“澪の隣”にあるものを、
どうしても許せない。
「……私が、行ってきます」
りあは、笑顔で言った。
「ああいうの、得意なんで」
恒一は、
何も言わずに頷いた。
(――動いた)
りあは、
迷いなく海翔の元へ向かい、
腕にべったりと絡みつく。
「ねえ橘くん〜!」
甘ったるい声。
「屋台、一緒に行かない?」
海翔は明らかに困惑する。
「……え、ちょっと」
「いいじゃんいいじゃん!」
強引に引っ張る。
その様子に、
澪は思わず足を止めた。
「……海翔?」
一瞬。
海翔と澪の間に、
距離が生まれる。
その“隙”を、
恒一は見逃さなかった。
一方で。
少し離れた場所にいた
えま、しおり、みさと、玲央は、
一気に緊張する。
「……やばくない?」
えまが低く言う。
「りあ、完全に利用されてる」
しおりの声が硬い。
みさとは、
澪の方を見て、顔色を変える。
「……澪が、一人になる」
玲央は歯を食いしばった。
「……最悪のタイミングだ」
花火の音が、
大きく鳴り響く。
光に紛れて、
人の流れが、また動く。
誰もが一瞬、
空を見上げた、その時。
均衡は、
静かに崩れ始めていた。