「そう言うのは違うのでは?」
横合いからドラゴに言ったのはザリガニのランプであった。
「むっ、アンタ我々の言葉が判っていたのか、んで何が違うというのだ?」
ランプは大きな鋏(はさみ)を持ち上げながら答える。
「こう見えて魔獣なのでね、大概の言葉は聞き取れますよ? それでですねえ、先程アナタは言いましたよね、ヘロン達鳥族を信用してはいけないと…… その後こうも続けましたね? 自分達、トンボ族こそ信頼に足る唯一の存在だと……」
ドラゴは羽音を大きくして尻尾を上方に反り上げながら言う、自信に満ちた感じに見える。
「ああ、アンタも見てたんなら判るだろう! ヘロンのヤツは信用ならない、それをナッキ様に言う事が、違う、だったか? 違わないと思うのだがっ? 寧(むし)ろ配下の邪悪さに気が付いたならば速やかに報告をする、それこそが忠誠心だと思うのだが、違うか?」
ランプは即答。
「ええ、違いますね! 先程アナタは忠誠をナッキ様に対して口にしました! それは先程傭兵として仕える、そう仰った言葉を打ち消してしまっているのですよ? それはそうでしょう、忠誠ですよ、忠誠っ! 傭兵とは対極にある概念ですよね? ……その上でアナタは同僚に当たるヘロンを悪し様に罵った、のみならず、自分こそが、自分達トンボ族だけがっ! 信用に足る存在だと、至高の存在たる王、ナッキ様へ言ってしまったのですよ? ここまでは理解出来ていますよね? 判りますか?」
ドラゴの羽音に迷いは無いらしく、一層自信満々の風情で周囲に響き渡る。
「当然だっ! あの馬鹿の言い様を聞いて主と仰ぐべきナッキ様にご注進申し上げたのだっ! 判っていなければ誰があの様に申すものかぁ!」
ドラゴが興奮気味に発する声にも、ランプはより冷静な言葉で返す。
「あのですね、ナッキ様にご注進といえば聞こえは良いですけどね、ヘロンから見れば讒言(ざんげん)、有り体に言えば言い付け口ですよ、それ? 主君に対して自分以外の家臣への不信を植え付けかねない言は慎まねばならない、当然ですよね? 国の中を割るのと同じですからね! もしも、ヘロンの邪悪が国を脅かしかねないだとかナッキ様の身に危険が迫っていると言う場合でもない限り、アナタが話し合うべきはナッキ様では無く、昔馴染みのヘロン自身で無ければなりません! その上で彼の本心を聞き出して、思い違いがあれば改心出来る様に説得するのですよ…… それでも改善しない、その時初めて他者に相談するのです」
ナッキが口を挟む。
「まあ、ドラゴが言い付ける前に僕が吹っ飛ばしたけどね」
ランプはこの言葉にも頷いて続きを話す。
「王自らの判断で行動するのは当然でございます、今話しているのは、全体を統治する王に対する一臣下の有り様について説いているのですよ! 良いですかドラゴさん、他者に相談すると言いましたが勿論ナッキ様に直接では有りませんよ、先程も言いましたが君主に申し上げては駄目なのです! 配下に敵がいるかもしれない…… こう言った猜疑心(さいぎしん)は国を危うくさせるだけだからです! ですから相談する相手は同輩たち、この池で言えばヒットさんやオーリさん、ゼブフォさんやカジカさん、アカネ、ブルの両リーダー、モロコのギチョーさんとカーサ、サムの両名、後はウグイのリーダーティガさん達でしょうね……」
「……なるほど」
小さく呟いたドラゴは、ナッキの周囲に集まっていた面々に視線を落とし、ついでっぽくでは有るが少し離れた場所でトイレ作りに精を出しているティガの事もチラリと見る。
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