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登場人物
御影 幸(ミカゲサチ)(♂)珠焉(ミコ)(♀)紅乃(コウノ) ソラ(♂)(存在のみ)教頭先生(本名:はげつるん 陽花(ぴっか))(♂)
「死んじゃダメだよ?」
初めて彼女の声を聞いた時のことを、俺は思い出していた。
床に寝そべったままの格好で、天井を見上げた。開けっ放しのまま閉め忘れられていた窓からほんのり暖かく心地よい風が流れ込んでくる。
その風に揺られたパーカーの外地にべっとりとついた赤い液体は、夕陽に染まり、さらに赤く見えた。
0、プロローグ
「この眺めも、今日で終わり……か。」
〇〇中学校の中庭の隅にある、今はもう使われていない掃除用具倉庫。倉庫の中には俺——御影 幸(みかげ さち)だけが、1人立っていた。…手には年季の入っていない、買ったばかりの縄と、洗面所で使うような台を持って。
「こんな変な場所で死ぬなんて、我ながら笑えるよな。」俺の苦笑が、倉庫の中に木霊する。そう、俺はここで死のうと思っていた。
特にやりたいことも興味を持てることもない。学校でも同じクラスの男女のほとんどに中学一年生から今までの3年間いじめられているし、おまけに父親からも虐待を受けている。おかげで心も体もボロボロ。制服で隠しているが腕と脚には包帯が巻いてあり、耳は片方聞こえない。髪は無造作に切られていて左側の方が長くなっている。手と足には手錠の痕が残っているなんて誰が思うだろう。そう、逃げられる場所なんてどこにもないんだ。
だから——————…
台を床に置いて、そこに登り、天井に縄をくくりつけて輪っかを作る。そこに首を通し、後は台から足をどければ、自動的に首が締まって縊死できる。
出来上がった歪な丸の中に、吸い込まれるようにして首を通そうとした俺の体を誰かが引っ張った。「!?」
そこには、首に包帯を巻き、高等部の制服を着て、その上からほのかな肌色のカーディガンを纏った少女が立っていた。
—————それが最初に聞いた彼女の声だった。
1、少女の目的と名
「あー……何で」
「ん?」
彼女に自殺を引き止められて床に2人向かい合うようにして正座してから5分後、俺はやっと彼女に口を聞いた。
「何故…こんなところ、に?」手が震える。
何で?鍵は閉めたはず。学校の中も一応ちゃんと見回って人がいないのを確認したはずだし、第一こんな時間に何で女子(しかも年上っぽい子)がこんな倉庫の中に……
「第一、あなたは誰————……」「あー、そういくつも質問しないでよ。どれから答えればいいか困るでしょ。」顔の前で右手を仰ぐようにして彼女がいう。それもそうか、5分以上地蔵みたいに黙りこくってた奴が急に質問しまくってきたんだもんな。驚くよな。
でも気になるのはマジで気になる。何で?どうして?って。
「じゃぁっ、2つともいっきに質問に答えたいと思いまーす。」「あ、はぁ……」
元気に振る舞いながら彼女がいう。自殺しようとしてた奴に見せる態度じゃないだろ。和むけど。
「私の名前は珠焉(みこ)。ここで死のうとしてたの。よろしくねっ!」左手でピースサインを作って彼女が言った。
「は??」つい間抜けな声が出た。何?死のうとしてた?俺と一緒じゃないか。
なら尚更何故俺を止めた?勝手に殺しておいてくれよ。あと何!?何が『よろしくねっ!』なの!?
ねぇ!?(発狂)
頭の中が疑問符でいっぱいになる。驚きすぎて死のうなんて考えが吹っ飛んだ。
そのまま一生帰ってくるなよ。一生。
「そういえば君の名前は?まだ聞いてなかったね。」「!」彼女の声で切れかかっていた意識が戻った。「………」
「あれ?教えてくんないの?喋んないの?さっきまであんなにベラベラベラベラ喋ってたのにー。」「…………………」
突然のことすぎて黙りこくってしまった。どうしよう。
まぁ彼女もそこまで追求してきそうにないから、このままやり過ご……
「じゃぁ私が勝手に決めるね!あなたの名前は皐月(さつき)!!」
「はぁ!!??」
突然に突然が重なって叫んでしまった。外まで漏れてないかな。
「さっ……⁉︎何だよそれ‼︎女っぽすぎるだろ‼︎」
「え〜?皐月が喋らないのがいけないんじゃ〜ん。」ニヤニヤしながら珠焉が迫ってくる。
知らないのか、俺は世にも珍しい病気と診断された『ニヤニヤ恐怖症候群』(?)なんだぞ。
「なっ…………っ!お、俺は幸!!御影 幸!!」
「え?もう決めちゃったから皐月で決定だよ?他はもう受付できませーん。」
あからさまに演技だとわかるくらい大袈裟にキョトンとした顔をしてから、また笑顔を作って彼女が言う。「あ、それとも〜、『さっちゃん』でもいいよ?」「ごめんなさい皐月でいいです。」「よろしい!」
あぁ、はっきり言って迷惑だ。どこかに行って欲しい。いや、行け。
「あ、『迷惑』って顔してるね?皐月。」
「なんでわかるんですか。怖い。誰のせいだと。」
つい敬語になってしまう。日々の慣れか。慣れとは怖いものだ。でも彼女は(服からして)きっと年上だ。
そうでなかったらタメ口で話しまくってやる。皐月って言うのやめてください。そう言ってそっぽを向く。でも、内心ちょっと驚いた。
(よく分かるな。俺は元々表情硬いし、しかも最近風邪気味だから今もマスクしてて顔の鼻から下は見えないはずなのに。)
「不思議…。」
気づけば、そうポロリと言葉が転がり落ちていた。
「ん?」
「あ、いえ。」
彼女に聞こえていたみたいだ。とりあえず適当に促す。(俺ら、どっかで会ったことあったような…?)そんな疑問のようなものを抱えていると、思考がものすごく働いて、俺の口からは一言も言葉が発せられないような状態になった。
(簡単に言えば黙った。)