この作品はいかがでしたか?
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あのまま2人とも黙りこくってそのまま朝になってしまった。
「眠い……」
同じ空間に歳の近い女子がいるとなると、緊張して仮眠するどころか一睡もできなかった。
(昨日のうちに死のうと思ったのに……)
倉庫を出た。
学校から出てすぐに家に帰らなければ。また父に殴られる。
もう慣れてしまったが、やはり殴られるのは怖い。
痛覚が狂ってしまった今でも、トラウマとして残り続ける。
永遠に。
「ふぁぁにしてんの〜?さつきぃ〜」
俺が1人、陰気臭いことを考えていると、ふわあぁぁぁと大きなあくびをしながら珠焉が倉庫から出てきた。(呑気だな。人の気も知らずに。しかも俺は幸だ。皐月じゃない。こっちは不眠症なんだぞ。なのにそんな大きなあくびを見せつけるな。腹が立つ。)
そう思っても口には出さない。
俺の心の中には人にはむかう『勇気』なんて存在しない。
あったらいじめられてなんかない。
心の中がいっきにドス黒く染まった。
いつものことだ。
気にしない。
気にしない。
俺に、逃げ場なんてないんだ。
「帰らないの?」
ずっと地蔵みたいにつったって百面相していた俺に、珠焉が話しかけた。
もう眠気は覚めたのか。
「帰りますよ。帰ればいいんでしょう。……そう言う珠焉さんは帰らないんですか?」
皮肉紛れに彼女に問う。
きっと『帰るよー?流石に家に帰らないとかないでしょw』などと嗤われるのだろう。わかっている。
(……あれ…………?まだあって間もないのになんでそんなことを推測しているんだ?おかしいだろ。何故か初めて会った気がしない。怖い。)
(……そんなわけないか。きっとただの偶然。憶測に過ぎない。きっと。)
「帰…る……?」
「あ、ええ。」
驚いた。
急に質問に質問で返してきた。
やるなコイツ(?)。「………」……口角だけ笑った表情を作ったまま、黙りこくってしまった。イライラする。
「………もう一度言いますよ??帰らないんですか?お・う・ち・に!!」
「!?」
急に叫んだ…びっくりした。また頭が疑問符でいっぱいになった。
(頭おかしいのかコイツ…。)
「…!……あ、あぁ、帰る。帰るよ!流石に家に帰らないと心配されるでしょ〜?」
さっきの『アレ』を隠すようにして彼女が言う。顔にはいかにも作り笑いというような笑顔を浮かべて。「ですよね。」
思わず作り笑いをする。
「じゃーね。」
彼女がそう言い、俺に背を向ける。そのまま、別れれば良かったのに。
ガッ
「………え?」←珠焉
「………………え⁇」←幸
なぜか、俺は無意識のうちに彼女の腕を掴んでいた。
「……何?」
驚いた顔で彼女が俺を見る。
「あ…の、」
『今だ!』『今だ!』と、心の中で俺の分身達が騒いでいる。
(今言わなきゃ。)
「お、俺ら……、前っ、何処かでっ………!」「会ったこと……ありませんか?」
「……………………え」
ようやく聞けた。
きっと、今の俺は決心をつけたようなおかしな顔をしているに違いない。
「あ、えっとぉ……、無いと、思うけど……?」
「そ、そうで、すか……」
「なんか、ごめんね。」
彼女が寂しそうな顔をする。
こんな顔、見たことないはずなのに。
何故。懐かしいと感じてしまうのだろう。
「あ、じゃぁ。」
彼女に軽く会釈して後ろを向く。帰ろう。地獄という名の我が家に。
やはり俺の居場所はあそこしかないのか。当たり前だよな。
あそこにしか、俺の居場所はないんだ。
他なんてない。やっぱり、俺には逃げ場なんてない。
改めて理解した。
「…うん。また明日。」
バツの悪そうに彼女が微笑む。何故?明日…あぁ今日のことか。
(ここ中高一貫だからな…塔は違うけど同じとこにあるからやっぱり年上か。あの人。)
俺の心模様は、最低で最悪だったけれど、その中には少し、ほんの少しだけ、光が差し込んでいた。小さな星のように。
つづく
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