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そこに、バルドゥビーダさんが現れた。彼は羽田さんに目配せをする。羽田さんは卓に目配せした。
卓が、ハードケースを持って出てくる。ケースには「バルドゥビーダ」と、マジックで書いてある。
「君にあげよう」とバルドゥビーダさんが言った。
心臓が震えた。
頭の中が真っ白になった。
このギターに、どんなに憧れ続けたことだろう。
だからこそ、決して類似モデルに手を出したことはなかった。
しかしこれは、形だけ似ている類似品なんかではない。ジェットを唸らせ、ファンを唸らせる数々の名曲を創り出したマシンそのものだ。
我々の、二回の勝負に使われたものだ。
バルドゥビーダさんにとって、涙と共に手放し、汗と共に取り返した、復活の証そのもののギターだ。世界に二つとして、あのような音の出るギターはあるまい。
「どうして、俺に」
バルドゥビーダさんの表情は、晴れやかだった。
「もう俺は現役ではない。昨日、やっとそう悟れたんだよ。君には感謝しなくちゃならない」
「昨日のことはまぐれかもしれません。次回やったら、バルドゥ、いえ米子さんが勝つかもしれません」
「随分、謙虚になったもんだな」バルドゥビーダさんは笑った「だったら、前だって俺が勝ったのはまぐれかもしれないよ。さあ、手にとってみるといい」
卓はケースを開けた。
中からパールホワイトの、シングルコイル二つとハムバッキング一つの載った、ソリッドギターが現れた。
コンソールスイッチの下の傷が、携帯の待ち受け画面と同じ場所に入っている。
ピックガードは磨り減っていて、肘の当たる辺りのボディペイントは薄く、下から木目が見えている。
近くで見ると、傷がほかにもあちこちについていた。ヘッド、カッタウェイ部分、ブリッジ近くにも。これで、あれだけ美しいサウンドが出るものなのだろうか。いや、俺はまだ若いから分からないけれども、これだけの傷を受け入れたからこそ、出せる音もあるのかもしれない。