テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
これは…乞食に捧げる物語である。
最初に会ったのは、春の学校行事だった。
僕――モリスケと、友人のシュンは同じグループで、彼――イケニシは、別グループのどこかにいた。
直接言葉を交わすことはなかった。ただ、その日から、どこかで名前と顔だけが、うっすらと頭に残った。
そして、夏。
シュンからのひと言がきっかけだった。
「イケニシって知ってる? あいつ、マイクラのサーバー持ってるらしいよ。今度入ってみる?」
それが始まりだった。
シュンに誘われて入ったそのDiscordサーバーは、思ったより整っていた。
チャンネルは用途別に整理され、Botも数体動いていた。参加メンバーもそこそこいたが、イケニシが中心となって、あれこれ指示を出しているようだった。
そこから、しばらくは穏やかな日々だった。
夏休みには、ボイスチャットをつなぎながら、何時間もマイクラの世界に潜っていた。
ギルドでもなく、仲良しグループでもない。ただの「ネットつながり」の距離感が、逆に心地よかった。
⸻
転機が訪れたのは、ある日、イケニシからの提案だった。
「マイクラのサーバー強化したいんだよね。大阪にパーツ買いに行こうと思ってる。付き合ってくれない?」
唐突だったが、ちょうど予定も空いていた。
そして、何より興味があったのは、彼の技術力だった。サーバーの構成や環境構築の話は、単純に面白かった。
大阪遠征には、僕とシュン、そしてイケニシの三人で行った。
僕たちはついでに電子工作のパーツもいくつか買い込んだ。
でも、シュンは半田付けができない。その場でイケニシに頼んだら、意外な返事が返ってきた。
「じゃあ、千円でやってあげるよ」
冗談かと思った。でも彼の表情は真剣だった。
千円という金額の割に、その態度はどこか借金取りのように強引で、せっかちだった。
「早く払ってよ」
「俺、ちゃんとやるから」
それでもシュンは支払った。
けれど、作業の進捗は遅く、催促しないと何も動かない。
そこに、僕は――少しずつ違和感を感じ始めていた。
⸻
すべてが壊れ始めたのは、冬だった。
イケニシが、こう言ってきた。
「マイクが欲しい。買う金がないから、出してくれない?」
そのとき僕は直感的に思った。
ああ、もう無理だ。これは“友情”じゃない。
それ以降、僕は彼に金を求められても、全て断るようにした。
シュンもまた、個人用のマイクラサーバーの構築をイケニシに依頼して、二万円を支払ったが――
結果として、サーバーが完成することは一度もなかった。
そして、僕自身も使わなくなったRaspberry Piをイケニシに格安で譲ってもらうことになったが、
「先に金を払え」としつこく迫るくせに、支払ってもモノが届かない。
送られてきた本体には、約束されていたケースが付属しておらず、後から『欠品』『捨てた』という説明が追加された。
もう、限界だった。
僕とシュンは話し合い、彼をブロックした。
⸻
それでも、
それでもきっと、イケニシにとって――僕たちは、“現実の”最後の友達だったのかもしれない。
でも、それはもう、どうでもいいことだった。
友情はもう、壊れたのだ。
⸻