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これは…乞食に捧げる物語である。


ACT.1:最初の取引


最初に会ったのは、春の学校行事だった。

僕――モリスケと、友人のシュンは同じグループで、彼――イケニシは、別グループのどこかにいた。

直接言葉を交わすことはなかった。ただ、その日から、どこかで名前と顔だけが、うっすらと頭に残った。


そして、夏。

シュンからのひと言がきっかけだった。


「イケニシって知ってる? あいつ、マイクラのサーバー持ってるらしいよ。今度入ってみる?」


それが始まりだった。

シュンに誘われて入ったそのDiscordサーバーは、思ったより整っていた。

チャンネルは用途別に整理され、Botも数体動いていた。参加メンバーもそこそこいたが、イケニシが中心となって、あれこれ指示を出しているようだった。


そこから、しばらくは穏やかな日々だった。

夏休みには、ボイスチャットをつなぎながら、何時間もマイクラの世界に潜っていた。

ギルドでもなく、仲良しグループでもない。ただの「ネットつながり」の距離感が、逆に心地よかった。



転機が訪れたのは、ある日、イケニシからの提案だった。


「マイクラのサーバー強化したいんだよね。大阪にパーツ買いに行こうと思ってる。付き合ってくれない?」


唐突だったが、ちょうど予定も空いていた。

そして、何より興味があったのは、彼の技術力だった。サーバーの構成や環境構築の話は、単純に面白かった。


大阪遠征には、僕とシュン、そしてイケニシの三人で行った。

僕たちはついでに電子工作のパーツもいくつか買い込んだ。

でも、シュンは半田付けができない。その場でイケニシに頼んだら、意外な返事が返ってきた。


「じゃあ、千円でやってあげるよ」


冗談かと思った。でも彼の表情は真剣だった。

千円という金額の割に、その態度はどこか借金取りのように強引で、せっかちだった。


「早く払ってよ」

「俺、ちゃんとやるから」


それでもシュンは支払った。

けれど、作業の進捗は遅く、催促しないと何も動かない。

そこに、僕は――少しずつ違和感を感じ始めていた。



すべてが壊れ始めたのは、冬だった。

イケニシが、こう言ってきた。


「マイクが欲しい。買う金がないから、出してくれない?」


そのとき僕は直感的に思った。

ああ、もう無理だ。これは“友情”じゃない。


それ以降、僕は彼に金を求められても、全て断るようにした。

シュンもまた、個人用のマイクラサーバーの構築をイケニシに依頼して、二万円を支払ったが――

結果として、サーバーが完成することは一度もなかった。


そして、僕自身も使わなくなったRaspberry Piをイケニシに格安で譲ってもらうことになったが、

「先に金を払え」としつこく迫るくせに、支払ってもモノが届かない。

送られてきた本体には、約束されていたケースが付属しておらず、後から『欠品』『捨てた』という説明が追加された。


もう、限界だった。

僕とシュンは話し合い、彼をブロックした。



それでも、

それでもきっと、イケニシにとって――僕たちは、“現実の”最後の友達だったのかもしれない。


でも、それはもう、どうでもいいことだった。

友情はもう、壊れたのだ。


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