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「これが、一番私らしい」
 そうして描き換えた絵を見ると、今の私を一番表現できていると思えました。
 「西華」
 「!奥様!いつから居たんですか?」
 先程まで居ないと思っていたから、とても驚きました。
 「そうだなぁ。絵、描き換えなきゃって所からだな」
 少し悲しそうに金色の瞳を揺らしながら、奥様はそう語りました。
 「申し訳ありません。全く気づかなくて」
 「いや、良いんだ。その絵、満足できたのか?」
 ついさっき描き直した絵を指差して奥様はそう尋ねました。
 「えぇ。美しくはありませんが、これが私らしいです。ですが、又、新しいものを描きたいとは思えませんね」
 そう言い終わると、奥様は少し悲しそうなお顔を見せました。
 「奥様、」
 私が奥様に声を掛けようとすると、アトリエの扉が勢い良く開いて、兵士が血相を変えて駆け込んで来ました。
 「化身様!ドール様!」
 「どうしたんだ!」
 奥様が驚いて兵士にそう声を掛けました。
 「イングランド兵が、イングランド兵がすぐそこまで来ています!」
 此処まで走ってきたのでしょう。息を切らしながら兵士はそう告げました。
 「今すぐ、お逃げ下さい!」
 この別荘は私が体調を崩しているから、一時的に落ち着けるようにと建てられた場所なだけあって、兵士も少なく、攻め込まれてしまえば簡単に破れてしまうような場所です。その為、多くの避難経路を用意しています。そこから逃げるしか有りませんね。
 「奥様、今すぐお逃げ下さい」
 アトリエにある避難経路に繋がる扉を開けそう言いました。
 「西華は?」
 「私は一緒に逃げると足手まといになります。ですから、囮になって参ります」
 私がそう告げると、奥様は眉間にシワを寄せて一言、「断る」と言い、私の手を取って共に非常用出口へ向かって走る事になりました。
 暫く走っていると、奥の方から複数の足音が聞こえてきました。
 「居たぞー!」
 「敵国の化身とドールだー!」
 こちらに向かってきていたのは、味方でも、助けでも無く、イングランド兵でした。
 この至近距離では逃げることは不可能で、かと言って、反撃するのも体調の悪い私を庇いながら奥様が戦うのは厳しく、あのまま殺された方が楽だったのかもしれないのに、私達は無慈悲にも捕虜にされました。
 そうして私達は、イングランド王国にある地下牢に連れてこられました。