テラーノベル
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抜いたドスが、室内のシャンデリアを反射して白く煌めく。
踏み込んできたのは四人。
全員、俺がかつて飯を食わせ、戦い方を教えた奴らだ。
「和貴さん……恨まないでください」
先陣を切った一人が、ドスを横一文字に振るう。
「甘え。腰が入ってねえぞ」
俺は最小限の動きでそれをかわし、すれ違いざまに奴の右腕を斬り上げた。
短い悲鳴が上がり、ドスが床に落ちる。
間髪入れず、二人が左右から組み付こうとしてきた。
俺は一人の首を掴んで盾にし、もう一人の鳩尾に容赦なく膝を叩き込む。
「ぐはっ……」
崩れ落ちる部下の背中を蹴り飛ばし、俺は親父を睨みつけた。
親父は微動だにせず、ただ冷たく、俺たちの殺し合いを眺めている。
「どうした、和貴。その程度か。お前の教え子はもっと骨があったはずだがな」
「親父、あんたのその余裕……いつまで持つか試してやるよ」
最後の一人が腰の銃に手をかけた。
抜かれる前に、俺は手近な重厚な灰皿を奴の顔面に投げつける。
鼻を砕く鈍い音が響くと同時に、俺は一気に距離を詰めた。
ドスの切っ先が、男の太腿を深く貫く。
「あ…が……っ!」
這いつくばる男たちの間を抜け、俺は親父のデスクへと一歩踏み出した。
だが、その時。
背後の大きな窓ガラスが、爆鳴と共に粉々に砕け散った。
「伏せろ、黒嵜!」
聞き覚えのある怒鳴り声。
同時に、特殊な閃光弾が室内で弾け、俺の視界は真っ白に染まる。
反射的に腕で目を覆い、床に伏せた。
数秒後、視界が戻り始めると
砕けた窓からロープで降下してきたのは――
黒いタクティカルベストを着込んだ、志摩と数人の男たちだった。
「志摩……警察が、何の真似だ」
「警察じゃねえ。……有志の『掃除屋』だ」
志摩は手に持ったサブマシンガンを親父に向けた。
親父は初めて顔を歪め、忌々しそうに舌を鳴らす。
「捜査一課の刑事が、勝手にテロ行為か」
「あんたらを裁くのに、綺麗な法廷なんて贅沢すぎるんでな」
志摩は俺の腕を強引に掴み、引きずり起こした。
「行くぞ、黒嵜!ここはすぐに応援の組員で埋まる」
俺は親父を斬り殺したい衝動を必死で抑え込み、窓の外へ続くロープに手をかけた。
振り返ると、親父は散らばった血の海の中で、ただ静かに俺を見ていた。
「和貴。地獄の底で、拓海が待っているぞ」
その言葉を背中に浴びながら、俺は夜の闇へと飛び出した。
俺と親父、そして榊原組。
三十年以上かけて築き上げた「家族」という絆は、今この瞬間、修復不可能なほど粉々に砕け散った。
落下する感覚の中で、俺の頬を冷たい風が叩く。
俺はもう、黒嵜和貴という名の極道ですらない。
名前も、家も、帰る場所も。
すべてを捨てた、ただの「獣」になった。
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