テラーノベル
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吹き飛ばされた俺の体は、冷たい石の床を数メートル滑って止まった。
意識は朦朧とし、視界はひどく歪んでいる。耳鳴りが頭の中を支配し、自分の心臓の音さえ遠く感じられた。
「兄貴!兄貴、目を開けてください!!」
山城が俺を抱き起こし、必死に名前を呼ぶ。
彼の声が、情報の海に溺れていた俺をかろうじて現実の世界に繋ぎ止めていた。
「……あ、あいつらは……」
俺は血に濡れた唇を動かし、かすれた声で尋ねた。
「無人機の軌道が変わりました!志摩さんから連絡があって、全機、新宿を迂回して海へと向かったって……。兄貴、やり遂げたんですよ!」
山城の涙が、俺の頬に落ちる。
だが、安堵する時間は一秒もなかった。
地底の空洞は、予言システムの暴走による過負荷で、あちこちから火花が上がり、岩盤が崩れ始めていた。
「…源蔵さん、みんなを……」
「わかってる、和貴。山城、そいつを担げ! ここもあと数分で完全に崩落するぞ!」
源蔵の指示で、山城が俺を背負い、出口へと走り出した。
背後で、あの巨大な輪転機が断末魔のような音を立てて爆発し、組織の「根源」が炎に包まれていく。
三十年分の呪いが、ようやく燃え尽きようとしていた。
一方、新宿の地上。
包囲網の指揮を執っていた影山は、手元の端末に映し出された信じがたい光景に戦慄していた。
「……目標から逸れた?全機、作戦エリア外へ向かっているだと!?」
再起動も、遠隔操作も受け付けない。
組織が誇る完璧なシステムが、一人の男の「記憶」によって上書きされたのだ。
「……黒嵜和貴。君はどこまで……」
影山が震える手で眼鏡を直したその時、彼の周囲を囲んでいた公安の精鋭たちが、一斉に銃口を彼に向けた。
「動くな、影山。……特別監査だ」
包囲網の隙間から現れたのは、ボロボロになったスーツを纏った志摩だった。
その手には、警察庁長官の直印が押された「緊急逮捕状」が握られていた。
「志摩…君、これだけの規模の計画を止める権限など……」
「権限なんてねえよ。だがな、上層部の『汚い金』の流れを、さっきお前のシステムから直接全部抜かせてもらった。…今頃、あんたの飼い主たちは、自分の首を守るために、お前を切り捨てる準備をしてるぜ」
志摩の不敵な笑みが、夜の闇に白く浮かぶ。
地上の包囲網が、内側から瓦解し始めた。
暗い地下道の奥。
山城の背中に揺られながら、俺は微かに見える出口の光を見つめていた。
100日後の消滅は免れた。
だが、組織との本当の決着をつけるための時間は、あと「86日」。
俺の失われた意識の欠片が、再び熱を帯びて燃え上がる。
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