ロ兄鬼rdpnの学生時代
rd side
穏やかに振り続ける雪と、指先がかじかむ寒さを感じていた。
授業が終わる昼過ぎ、そさくさと校外に出れば校庭は真っ白な雪に埋め尽くされていた。登校した時よりも雪が積もっており、長靴など履いてこなかった自分の靴は雪に少し埋もれていた。無関心さとほんの少しの苛立ち混じりに雪を蹴り上げれば、少量の雪が宙を舞い 直ぐさま地面に落ちるだけだった。他の生徒が校門から下校する中、一人目立つ生徒が此方に駆け寄っていた。
「らだぁ何してんの?」
「雪遊び」
横から天乃に声をかけられても視線を雪に釘付けにしたまま、ぶっきらぼうに返事をしていた。雪遊びと言っても、地面の雪を蹴っているだけで何の生産性は無かった。横目で天乃の方を見れば、彼は顎に手を当てて少し考えたあと 不思議そうな表情で此方を見てきた。
「いや…蹴ってるだけじゃん!」
多少時差はあったが案の定、天乃に指摘された。
「どうせ遊ぶなら雪合戦しようぜ!」
天乃の言葉に『子供っぽい』と わざわざ言葉にする事はせず、退屈そうにもう一度雪を蹴り上げた。考えるように小首を傾げた後、わざとらしく媚びた表情をし ふざけた裏声で返事をする。
「え゙ー、アタシ寒いの苦手だしぃ」
「ダミ声だし低クオすぎだろ」
天乃のツッコミを無視し、気だるげに肩をすくめるだけだった。天乃から数歩離れたあと、地面の雪をかき集めて小さな雪玉を作った。天乃に気づかれる前に、前触れもなしに雪玉を投げつけてやれば 相手の驚いたような声と共に天乃の胴体に雪が当たった。天乃は一瞬唖然としていたが、すぐに雪をかき集めて仕返しかのように此方に雪玉を投げつけてきた。だが ずさんな雪玉だった為、此方に当たる前に砕け散った。
放課後の生徒達が下校する声が薄らと耳に入りながらも、そちらに意識を集中する事はなく 天乃との雪合戦をし続けていた。彼らは手袋を付けておらず手はかじかんできていたが、お互いの負けず嫌いが遊びを延長させていた。
雪を多く被っていたのは天乃の方だった、だが此方は少々疲れてきていた。そもそも天乃とような体力馬鹿との雪合戦なんて、いつまで続くのか。疲れたようにため息を吐けば、冷たい気温の中で吐息は目に見える白い煙に変わっていた。繰り返すかのように地面の雪をかき集め、雪玉を作る。天乃の方を見れば 同じく雪玉を作るのに集中しており、チャンスと言わんばかりに隙だらけだった。先程より腕を大きく振りかぶり、天乃の方に雪玉を投げつければ 見事、雪玉は顔面に当たり散った。
「うわっ!」
不意をつかれた天乃は情けない声を上げて、勢いで仰向けに倒れ込んだ。雪の上で悔しそうに声を上げている天乃を鼻で笑いながら、少量の雪を手に持ち 近付いた。倒れている天乃の横に立てば、煽るように上からまばらに雪を降らせる。
「うぇーい、俺の勝ち〜」
「死体撃ちやめろ!」
ようやく収束しそうな雪合戦。実際は数十分程度なのだろうが、数時間は遊んだ気分になっていた。天乃は雪に寝転んだまま、顔に降らされた雪を払い除けていた。力任せに払い除けている様は幼稚だな と思いながら見下ろしていれば、天乃の黄色い目が合う。相変わらず綺麗で、ビー玉のように透き通る瞳だった。周りの真っ白な雪とも合わさって、ほとんど儚げに見えた。天乃本人の元気な言動と騒々しい性格のせいでモテる事は少ないだろうが。
「…どうした?」
ずっと見つめ続けていたからか、天乃は少し心配そうにしていた。素直に褒める事はなんだか癪なのでしたくなかったし、心の中でも思いたくなかった。適当に言い訳しようと考えるが、それよりも前に 自然と口が開いていた。
「天乃の目に見惚れてた」
思わず口に出た。ミスったなー と思いながら天乃の様子を伺えば、訝しげに眉をひそめながら此方を見上げていた。そりゃそんな反応になるだろう。
「んだよそのプロポーズみたいな…」
天乃はようやくゆっくりと上半身を起こし、雪の上に座ったまま制服に着いた雪を払い除けていた。プロポーズ。よくよく考えれば確かにそんな風にも捉えられる。だが此方としてはそんな気持ちは微塵も無かったし、天乃自身もその言葉を本気で捉えている訳では無いだろう。だが、からかうには絶好のタイミングだった。
「…あー、じゃあそういう事で良いよ。好きだぜ天乃」
「やめろマジで吐くぞ」
そんな風にしばらく天乃と駄弁っていれば、聞き慣れた夕方のチャイムが鳴った。そんなに長話していただろうかと時間の流れを早く感じた。
先程の今世紀最大の告白…という訳では無いが、見事に振られた事を思い返す。ただのからかいだった為、実際に気にする事はなかった。天乃とはただの友人だ。それが覆ることは今もこの先も一生ないだろう、安心安全な友好関係を築けていける。
それがほんの少し虚しくなるのは、きっと気の所為だと。
コメント
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儚い感じ ⋯ と言うんでしょうか、そんな書き方が大好きです。前話も勿論好きなのですが、特に今回の物語が好きすぎて ⋯ フォローとコメント、失礼致します。