テラーノベル
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錆びついた拡声器から放たれた俺の声は、雨に濡れた新宿の空気を震わせた。
それは洗練された組織の「共振パルス」とは程遠い、歪んで割れた、ただの叫びだ。
「…あ、あ、ああ……」
俺の目の前にいた一人の若者が、頭を抱えてその場にうずくまった。
瞳に宿っていた赤い光が、激しく明滅し始める。
組織のシステムが構築した完璧な秩序に、俺の泥臭い「ノイズ」が楔を打ち込んだ証拠だ。
「志摩、今だ!スピーカーの出力を最大に上げろ!」
「やってる! だが、街中のサイネージをすべて黙らせるには、中央制御塔――都庁の電波塔を直接叩くしかねえぞ!」
志摩が叫ぶのと同時に、赤い光を放つ住民たちが、一斉に俺に向かって咆哮を上げた。
拒絶反応だ。
システムが、俺という「不純物」を排除するために、操り人形たちの攻撃性を限界まで引き上げたのだ。
「兄貴、危ねえ!」
山城が俺の前に飛び出し、丸腰の住民たちを傷つけないよう、最小限の力で押しとどめる。
だが、その数は増える一方だ。新宿の路地裏という路地裏から、自我を奪われた亡者たちが溢れ出してくる。
「和貴、ここは俺たちが食い止める!お前は志摩と都庁へ行け!」
源蔵が土砂崩れで培った太い腕を広げ、人の波を押し返す。
「源蔵さん……!」
「行けと言ってるんだ!この街の『音』を取り戻せるのは、あの地獄の濁流を生き残った、お前しかいねえ!」
俺は志摩と共に、雨の新宿を走り出した。
目指すは、闇夜にそびえ立つ双子の巨人――東京都庁舎。
そこは今や、組織がこの街を支配するための、巨大な「指揮アンテナ」と化している。
走りながら、俺の脳裏には地底で見た「予言」の残像がフラッシュバックしていた。
100日後の消滅。それはただの物理的な破壊じゃない。
魂を抜かれ、組織の歯車と化した人間たちが、自らこの街を解体していくという、最も残酷な「終焉」の形だ。
「……させるかよ」
俺は脇差を強く握り直した。
都庁の入り口には、最新の防護服を纏い
もはや人間であることを止めたような影山直属の私兵たちが、無機質な銃口を揃えて待ち構えていた。
残された時間は、あと83日。
新宿の頂上を目指す、血まみれの階段が幕を開ける。
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