テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
m ( 低浮
青い監獄の「間接キス」方程式
ブルーロックのトレーニングルーム。熱気と汗の匂いが立ち込める中、潔世一はタオルで首を拭いながら、新発売のスポーツドリンクを煽った。
「ふぅ……。これ、マジで美味いな」
その呟きを聞き逃さなかったのは、常に潔の動向を追っている蜂楽と凪だった。
「えー、潔、俺にもちょーだい!」
蜂楽が子犬のような勢いで潔の肩に飛びつく。
「俺も。潔が飲んでるやつ、美味しそう」
凪も当然のように、玲王を置き去りにして潔の隣を陣取った。
かつての相棒である凪が、当たり前のように潔に懐く姿を見て、玲王は苦いものを噛み潰したような顔をする。凪を奪った潔世一。憎い。あいつさえいなければ。……そう思っているはずなのに、最近の玲王は潔の「無自覚な人の良さ」に毒されつつあった。
そこへ、不機嫌を絵に描いたような凛が通りかかる。
「おい、いつまで群れてやがる。……おい、潔。その面、目障りだ」
「あ、凛! ちょうどいいところに。これ、新発売のドリンクなんだけど、キレのある後味で凛も好きだと思うぞ」
潔は凛の暴言を爽やかにスルーし、屈託のない笑顔を向けた。
「……いらねぇよ。死ね」
凛は吐き捨てて顔を背けるが、耳元がわずかに赤い。素直になれない彼は、潔の真っ直ぐな好意にいつも調子を狂わされていた。
「あはは、凛ちゃん照れてる〜!」
「……殺すぞ、蜂楽」
騒がしい連中を冷めた目で見ていた玲王に、突然その瞬間が訪れた。
潔が、ボトルを持ったまま玲王の方へ歩み寄ってきたのだ。
「あ、玲王。お前もこれ、飲んでみるか? めっちゃ美味いぞ」
潔はなんの躊躇いもなく、自分が今しがた口をつけていた飲みかけのボトルを玲王に差し出した。
「え……?」
玲王の思考が止まる。
待て。それはお前が今、飲んでいたやつだよな?
つまり、これを俺が飲めば、世間で言うところの「間接キス」というやつになるのではないか。
「ほら、冷めてるうちに。マスカット味でスッキリしてるんだ」
潔の瞳は、一点の曇りもなく玲王を見つめている。彼は天然なのだ。エゴイストでありながら、こういう部分では恐ろしいほど無防備で、お人好し。
「……っ、」
玲王の顔に、急速に熱が昇る。
憎いはずだ。凪を連れて行った元凶で、ライバルで。なのに、差し出されたボトルから目が離せない。拒絶して突き放せばいいのに、潔の期待に満ちたキラキラした視線に、脳がNOを出すのを拒否している。
「玲王? いらないなら凪に……」
「……飲むっ! 誰がいらないなんて言ったよ!」
奪い取るようにボトルを掴んだ玲王の手が、微かに震えていた。
隣で凪が「あ、玲王ずるい」と不満げな声を出し、凛が「……チッ、馴れ合いやがって」とさらに不機嫌なオーラを放つ。
玲王は潔に見せつけるように、赤くなった顔を伏せながら、その飲み口に唇を寄せた。
(……甘い。これ、ドリンクの味じゃねーだろ……)
心臓の鼓動がうるさくて、スポーツドリンクの味なんて本当はこれっぽっちも分からなかった。ただ、潔世一という男のペースに、今日もまた引きずり込まれていく自分を自覚するしかなかった。
「な? 美味いだろ?」
潔の無邪気な笑みが、玲王のプライドを粉
々に砕いていく。
「……ふん。……まあ、悪くねーよ」
玲王はそっぽを向いて、精一杯の強がりを口にするのが精一杯だった。