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49 ◇突撃隊長の絹さん
或る日のこと、涼に所用があり、ふたりより先に帰った日それとなく絹は
温子に探りを入れた。
「温子さん、看護婦になろうと考えたのはいつ頃なの?」
「え~と、そうですね。割と小さな頃からなんとなくですけど
勉強をして職業婦人になりたいって思っていて、その時は看護婦でなくても
良かったのですが、お祭りでコケた時に境内のすぐ近くに家がある近所の
お姉さんが家に連れて行って水で擦りむいた箇所を洗ってくれて
そのあとヨードチンキを塗って包帯まで巻いてくれたことがあったのですが
それが切っ掛けだったように思います」
「そうなの。でも温子さんは看護婦さんがぴったりだわ」
「そうでしょうか。それだとうれしいのですが、そう言ってくださり
ありがとうございます」
「温子さん……」
「?」
「立ち入ったことを聞きますけど、最近離婚なさったっていうのは
本当なの?」
「ええ。お恥ずかしい話ですが本当です」
「あなたを見ていれば分かるから大丈夫。恥ずかしいことをした人はきっと
あなたじゃないって。ああ、別にただの興味本位でこんなこと聞いたわけ
じゃなくて、え~と何て言ったらいいかしら……」
「大丈夫ですよ、おっしゃってください」
「温子さんにぴったりの素敵な男性を知っていて、ぜひその男性
をお勧めしたいなぁ~なんて思ってるの」
「もう結婚はコリゴリだわって思う一方で、良い方に巡り逢えれば……
なんて、夢見る夢子さんのような考えになる時もあります。ふふっ。
でも一緒に暮らしてないとはいえ、大きな娘のいるもうすぐ四十に手の
届くおばさんにそんな奇跡なんて起きないわよ、なんて自分に言い聞かせて
雑念を払っています」
「温子さん、あなた次第で奇跡は起きますよ!」
「え~っ、絹さんったらぁ、もうっ」
「実はね、私の推したい人は涼さんなの」
――――― シナリオ風 ―――――
〇畑/絹と温子 / 涼が一足先に帰った後・ある日の夕方
畑には絹と温子のふたり。
長閑な夕焼け空が広がっている。
絹(少し探るように)
「ねぇ温子さん。
看護婦になろうと思ったのって、いつ頃から?」
温子(笑顔で思い出しながら)
「小さい頃、神社のお祭りで転んだとき、
近くの家のお姉さんが手当してくれたんです。
それがきっかけかもしれません」
絹「なるほど……それで、人を癒すお仕事を」
温子(軽く頷き)「はい。今も、この仕事が好きです」
少し間を置いて、絹が切り出す。
絹(やや真顔に)
「立ち入ったこと聞くけど……最近、離婚なさったって本当なの?」
温子(一瞬戸惑いながらも、柔らかく)
「ええ。恥ずかしながら……本当です」
絹(真剣に)
「でも、あなたを見てれば分かる。
恥ずかしいことをしたのはきっと、あなたじゃない」
温子、少し目を伏せる。
絹(続けて)
「……実はね、温子さんにぴったりの素敵な男性を知ってるのよ」
温子(目を見開いて)
「……え?」
絹(おどけたように)「ご紹介したくてうずうずしてたの」
温子(小さく笑い)
「結婚はもうこりごり……と思いながら、
でも良い方が現れたら……って、夢見てしまうこともあります。
でも、現実には私はもう“おばさん”ですし……」
絹(真剣な眼差しで)
「温子さん。あなた次第で、奇跡は起きますよ!」
温子(照れて)
「絹さんったら……もう……」
絹(そっと)
「私が推したい“その人”ってのは……涼さんなの」