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#ファンタジー
悠真 side
最初に澪を見た時。
悠真は胸の奥が妙にざわついた。
細い、と思った。
痩せているというより、“削れている”みたいだった。
親に「今日から一緒に暮らす子」と紹介されても、澪はほとんど顔を上げない。
視線は床。
肩はずっと強張っている。
まるで少しでも気を抜いたら傷つけられると思っているみたいだった。
『事情はあまり聞くな』
そう大人たちには言われていた。
でも聞かなくても分かってしまう。
この子は、ずっと怖い場所で生きてきたんだと。
「……よろしく」
そう声をかけた瞬間。
澪の肩がびくりと揺れた。
その反応に悠真は息を呑む。
男の声。
それだけで、ここまで怯えるんだ。
悠真はその時初めて、“普通に接する”ことの難しさを知った。
近づけば怯えさせる。
でも距離を置けば、澪は捨てられたみたいな顔をする。
どうしたらいいのか分からなかった。
それでも一つだけ決めた。
絶対に、この家を怖い場所にしない。
新しい家での生活が始まって数日。
ある夕方。
澪は食器を運んでいる途中でコップを落とした。
ガシャン。
大きな音が響く。
その瞬間だった。
澪の顔から血の気が引いた。
「ご、ごめんなさい」
震える声。
慌てて床へ膝をつく。
割れた破片を素手で拾おうとする。
指を切ることなんて気にもしていないみたいに。
「待って!」
悠真が咄嗟に手首を掴む。
その瞬間。
澪の身体が硬直した。
息が止まる。
肩が震える。
怯えた目。
その目を見た瞬間、悠真の胸が締め付けられた。
違う。
怒るためじゃない。
怪我をするから止めただけなのに。
悠真はすぐに手を離した。
「ごめん」
反射的にそう言っていた。
澪は呆然としていた。
「怒ってないから」
悠真は静かに言う。
「危ないと思っただけ」
澪は何も言わない。
ただ不思議そうな顔をしていた。
怒られないことの方がおかしいみたいに。
その顔が、苦しかった。
どれだけ自分が謝ればいいと思って生きてきたんだろう。
どれだけ機嫌をうかがえば傷つけられずに済むと思ってきたんだろう。
悠真には想像もできなかった。
でも想像できないことが悔しかった。
コメント
1件
うわ……このエピソード、すごく胸に来ました。悠真が澪の反応の一つひとつから「過去の傷」を読み取っていく描写が細かくて、特に「謝ることの方が当たり前」になってしまっている澪の姿が切なかったです。コップを割った後の「ご、ごめんなさい」と、素手で破片を拾おうとする震え——あの場面、読んでて息が止まりました。悠真が「怒ってないから」と言った時の、澪の「不思議そうな顔」が全てを物語ってますね。何が「普通」かを教え直さなきゃいけない距離感、これからどう変わっていくのか気になります。