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少し寒いな……上着持ってこよう。
俺が振り向くと、俺の上着を持ったヒカリ(巫女の格好をしているナオトの高校時代の同級生)が目の前に立っていた。
俺は上着を受け取ると黒いパーカーの上から羽織った。うん、温かい。
俺がそう思っていると、ヒカリが俺の右隣にやってきた。
「なあ、ナオト。お前はあの子たちのことをどう思っているんだ?」
俺は鉄柵に両腕を置いて答えた。(ここはアパートの二階)
「最初に言ったろ? みんなのことは娘、兄妹のようにしか思ってないって」
「……いや、そうではない」
「じゃあ、なんだよ」
「……その……あの子たちがお前にラブの方の意味で好きという感情を抱いているのが気になってな」
「ん? あー、うん。俺もそれは気になってたよ。まったく……どうしてあんな可愛い子たちが俺なんかを好きになったのかな……」
「……そうか、お前もそれは感じていたのだな……それで? 答えは出たのか?」
俺は首を横に振りながら、こう言った。
「いや、未だに全く理解できないよ。俺に好意を寄せてくれるのは別にいいんだけど、全員が俺の嫁候補だと聞かされた時は正直、驚いたよ。ほんと、何度聞いてもありえない話だよな」
「まったくだ。お前が結婚できる存在と言ったら、全世界、全宇宙を探しても先生ぐらいしかいないと思っていたのに……」
「ああ、まったくだ。お袋が余計なことを言わなければ、俺は今頃結婚できていたかもしれないのに」
「……なあ、ナオト」
「んー?」
「お前は……その……今でも先生のことは……」
「ああ、未だに好きだよ。まあ、向こうはそうは思っていないだろうけどな。あはははは」
「なぜそう思うんだ?」
「え? いや、だって、先生はやたら俺に厳しかったし、それに……」
「それに?」
「きっと今でも、俺のことをゴミ以下の存在だとしか思ってない……」
「ナオト、それは違うぞ」
その言葉を聞いた彼は、ヒカリの方を向いた。
「……えっ? それってどういう……」
ヒカリは真っ直ぐな目でこちらを見ながら、こう言った。
「それは自分で考えろ。それに今はお前があの子たちの中から誰を選ぶかだろう? その時が来たら、ちゃんとお前の気持ちを素直に伝えるんだぞ?」
「え? あー、うん、分かった。考えておく」
「そうか……。私はもう寝るが、お前はどうする?」
「うーん、少し用があるから、しばらく外にいるよ」
「そうか……なら、気をつけろよ。ここが異世界だということをくれぐれも忘れるな」
「ああ、分かったよ。それじゃあ、おやすみ」
「……ああ、おやすみ……まったく……鈍感なのも変わっていないとはな……はははは」
ヒカリが部屋の中に入ったのを確認すると、俺は階段を下り、甲羅の上を歩き始めた。
ちなみに言っておくと俺は寝る時も黒いパーカーと水色のジーンズを着て寝る。なぜかは、いつか分かる。
____ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の頭部に到着すると、俺は念話でミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)に話しかけた。
「おーい、ミサキー。まだ起きてるかー?」
「なんだい? ご主人」
「夜遅くにすまない、ちょっと用があってな」
「ふーん、そうなんだ。で、なにかな?」
「その……俺たちってさ、まだちゃんと会って話したことないなー……って」
「あー、たしかにそうだね。いつも念話だもんね」
「そうなんだよ。でさ、今夜は俺、眠れそうにないから……」
「いいよ。話し相手になってあげる」
「い、いいのか? そんなあっさり」
「僕に断る理由はないし、ご主人はそれを望んでる。だったら、今すぐに実行すべきでしょ?」
「ま、まあ、そうだな。じゃあ、よろしく頼む」
「うん! それじゃあ早速、僕の家に招待するね」
「えっ! ちょっ! まだ心の準備が!」
その時、自分の立っている場所の床が無くなり、昔話に出てきそうな円い穴に落ちてしまった。
すべり台というレベルではない長さのトンネルの終わりが見えないせいで俺は暗闇に包まれた。
これ、大丈夫かな? というか、おしりが痛いな。だが、そんな心配は無用だった。
タイミングよく着地したつもりだったが、勢い余ってこけそうになった。
ふぅー、やれやれ、なんとか着いたな。
「ここがミサキの中か……なかなか広いなー」
頭部から落ちてきたから今見ているのはおそらく、ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の胴体の中だろう。
それにしても、ミサキはどこにいるんだ?
その時、背後から何かで目隠しをされた。
「だーれだ?」
「えっ? な、なんだ? 何も見えないぞ」
「僕は誰でしょうか? 当てられたらやめてあげるよ」
「え、えーっと……ミサキかな?」
「ピンポーン! 大正解!」
そんな声が聞こえた後、目の前に先ほどの景色が見えた。
当てずっぽうでも、当たるものだな……。
俺が振り向くと、そこにはふわりと着地する少女の姿があった。
ベリーショートの黒髪に水色の瞳。
白いTシャツに水色のショートパンツ。身長はコユリぐらい。(コユリは百三十五センチ)
俺がまじまじとミサキを見ていると、こちらに気づき、話しかけてきた。
「そんなにジロジロ見ないでよ。恥ずかしいから」
「いや、なんか、かわいいなーって」
「そうかな?」
「ああ、すっごくかわいいぞ」
「て、照れるなー」
「照れる姿もかわいいな」
「そうかな? えへへ、ほめられちゃった」
その場にしゃがみ込んで顔を両手で隠しながら、こちらに背を向けている彼女もかわいらしかった。
この子がミサキ。
俺たちをここまで安全に運んでくれた『巨大な亀型モンスター』の本体である。
というか、ミサキってモンスターチルドレンなのかな? よし訊いてみよう。
俺はその場にしゃがみ込んでいる彼女に話しかけた。
「おい、ミサキ。ちょっといいか?」
ミサキはスッと立ち上がると、こちらに目をやった。
「なんだい? ご主人」
「その……お前はモンスターチルドレンなのか?」
「…………」
あれ? なんか俺、まずいこと訊いちゃったかな?
あー、やばいな。この質問って「体重、何キロ?」って言うのと、同レベルのやつかな?
ミサキはさっきから、俯いたまま動かないし……あー、もうー! 本当に何なんだよ!
その時、ミサキが急に口を開いた。
「僕はモンスターチルドレンじゃないよ」
「え? そうなのか?」
「うん。でも、ただのモンスターでもないよ」
「ん? じゃあ、お前はいったい……」
「知りたい?」
「知りたい! 知りたい!」
「えー、どうしようかなー」
「教えてくれ! 頼む! この通り!」
俺が頭を下げながら両手を合わせて、懇願すると、ミサキはこう言った。
「うーん、じゃあ……ご主人がゲームで僕に勝てたら教えてあげてもいいよ?」
「ゲ、ゲーム?」
「うん、そう。じゃんけんゲーム。ちなみに、一回勝負だよ」
「じゃ、じゃんけんゲーム……だと。しかも、一回勝負って……」
____じゃんけん。
それはグー、チョキ、パーのいずれかをお互いに一種類だけ出して勝ち負けを決めるゲームである。
心理戦、手の動き、相手の表情。
いろいろあるが、勝利のカギはただ一つ。自分を信じ切れるかどうか……ただ、それだけである。
「それじゃあ、いくよー」
「おう!」
『じゃーんけーん!!』
己が信じるものを出す! ただそれだけだああああああああああああああ!!
『ポン!!』
俺は……勝った……のか? 震える手を抑えながら目を開くと、そこには……。ミサキはグー。俺はチョキ。
負けた……だと。そんなバカな! 俺の勝利のブイサインが負けただと!
俺は負けたショックで、その場に膝から倒れ、両手を床につけた。
そんなはずないんだああああああああああああああああああ!!
その時、ミサキは少し屈むと小声でこう囁いた。
「僕は四聖獣の一体。【玄武】だよ」
「えっ!?」
俺が顔を上げると、ミサキの顔が目の前にあった。
「僕はね、相手が次に何をするのか見通せる眼を持ってるから、ご主人に勝ち目なんてなかったんだよ」
俺は立ち上がりながら驚愕した。
「えっ! それじゃあ、お前は俺と!」
「うん、ただ単に遊びたかっただけだよー」
「えー、なんだよそれー」
「えへへへ、ごめんね?」
「……まあ、いいや。俺も楽しかったし」
「そう。なら、よかった」
「でも、次はやらないからな?」
「えー」
「えー、じゃない」
「はいはい、分かったよ。それで? 次はどこに行くんだい? ご主人」
「ん? あー、そういえば、まだ言ってなかったな。えーっと、次の目的地は……『藍色の湖』に行くって、ミノリが言ってたな」
「あー、あそこね」
「その口振りから察するに……そこは、お前に関係する何かがある場所だな?」
「まあ、僕の生まれ故郷だからねー。全く関係がないと言ったら嘘になるねー」
「そうか。じゃあ、里帰りだな」
「まあ、そういうことになるね」
「……そうか。じゃあ、俺はそろそろ帰るぞ」
「うん。おやすみ、ご主人」
「おう、おやすみ」
その後、ミサキがアパートまで転送してくれたので一瞬で帰ることができた。
それにしても、ミサキが『四聖獣』だったなんてな。
さてと、今日はもう遅いから寝るか。
俺はドアを開けて、部屋の中に入ると上着をハンガーに掛けた。
その後、みんなを起こさないように、そーっと布団に入った。
今日も疲れたけど、楽しかったな。ヒカリとも会えたし。
それじゃあ、おやすみ……。
こうして、異世界での長い一日が終わったのであった。