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ハッキングするにはそう時間はかからなかった。ふん…あんなもの俺にかかれば1分もいらない。


ユキナリのスマホは何事もなかったかのように、リンタロウに元の場所に戻させた。


8時10分になったがそろそろユキナリが起きる頃だろう。


リンタロウはソファに座りテレビを見ていて、俺はいつも通りダイニングテーブルの上で仕事をこなしている。


変わらない日常だ。

ユキナリから見れば。


「うわぁぁ?!もうこんな時間〜?!」


12分ぐらいに回った頃、部屋からユキナリの大声が聞こえた。

ユキナリが起きる予定だった6時のアラームはリンタロウが止めて、そのまま時計がならないよう設定しているからな。

当の本人は目が覚めたら2時間以上の寝坊だ。

大声をあげるのも当然だろう。


バタバタと音が聞こえた後に扉が大袈裟に開かれた。


「はぁっ…ちょ、ちょっと!リンタロウ!!なんで起こしてくれなかったんだよ!」


ユキナリは寝坊すると毎回リンタロウの方へ怒鳴りにいく。

リンタロウが同部屋なせいなのか、それとも俺に対しては怒鳴りにくいのかどっちにしろ構わんが、毎度同じように怒鳴られるリンタロウには、ほんの少しの同情ぐらいはしてやる。


「えっ、ユキナリくん僕になんにも言ってないし何時に起こしてとかも言ってなかったじゃない♪」


「そっ…それはそうだけど…」


「なにか大事な予定でもあったの?♪」


「……」


…ふむ、リンタロウが直接聞いたようだな。自然な流れで本人に直接聞けたのはかなり大きい。

だがユキナリは沈黙を貫き下を見つめるだけだ。


「…ユキナリ。予定があるなら言えとこの前から言ってるだろう」


「…そ、その…友達と約束が…」


「またか?」


「…っ」


やはり様子はおかしいようだな。

…試しに少し深堀りしてみるか。

俺はリンタロウに視線を向けると、リンタロウも気付いたのかこちらを見つめ返し頷き始めた。


「ユキナリくん、その友達って誰なの。いっつも約束だって言ってるけどさ…僕たちはユキナリくんのこと心配してるんだよ」


「なんにしろ、その様子を見ると寝坊したんだろう。観念して今回はその友達との約束はやめて俺たちに詳しく話を聞かせろ」


リンタロウの頷きを合図かのように、ユキナリへと問い詰める。

必要なことだ。

暫くの間、沈黙が続くと、耐えられなくなったリンタロウが再び口を開こうとしたその時だ。

ユキナリが勢いをつけて顔を上げた。


「そ、そんなの、リンタロウたちに関係ないだろ…!」


「ユキナリ…くん…?」


ユキナリは声を張ると次いで部屋着のまま玄関ドアまで走りゆき、そのまま外へと飛び出た。

しまった…

まだ問い詰める段階じゃなかったか…


俺が追いかけるように立ち上がろうとするとリンタロウが俺の腕を掴んだ。


「…っ」


「……ユキナリくん、ポケットの中にスマホを入れてた。今コウくんが追いかけてもきっと無駄だよ」


「チッ…わかってる…。水を飲もうとしただけだ」


「……ふーん、ホントかな♪」


いつまでも掴まれたままの腕を振り払うように離し、台所へと足を運ぶ。

…くそ、腹が立つ。

これも作戦の内のはずだったのに、実際目の前でユキナリのあの姿をみたらつい身体が動いてしまった。


いやこんなの考えてる暇はない。…ユキナリの動きを見るんだ。

ハッキングをした時に、パソコンからユキナリのスマホの中身を見たが、これといった履歴は残っていなかった。

電話や、メールの履歴、SNSまで全てを調べたがそれといったものは何一つ見つからなかった。


あいつがどこに向かうのか。

俺が今知るべきことはそれだけか…。

まあ、その為だけにハッキングだって仕掛けたのだからな。

当然と言えば当然なのか。


「…おいリンタロウ。ユキナリがどこへ向かったのか見るぞ」


「うん♪」


俺は水の入ったグラスを机に置くと再びパソコンを開いた。

流れるようにユキナリのスマホの居場所がわかる画面までキーボードを叩く。


「……ん?」


画面が現れた瞬間だった。


「ここって…??」


「……駅…か」


ユキナリの居場所を示すピンは最寄りの駅付近を示していた。

段々と駅の近くまで向かっている。


「僕たちの考えすぎだったのかな?本当に友達と遊ぶだけとか?」


「…それならさっき俺がスマホの中を見た時になんの履歴も残っていないのは不自然だろう」


「う、うーん…それもそっか…」


そう。ごく普通に友人と遊ぶだけ、だったら何かしらの連絡はするであろう。

電話であれメールであれ、いつどこで遊ぶのかは決めるべきだ。それとも待ち合わせ場所があるのか?

たまたま道でばったり会ってそこで約束を釘付けたとか…


いや、ただあまりにもこの状況で素直に認められざるを得ないのは、やはりなにかがある気がする。


「リンタロウ。このまま様子見するぞ」


「わかってるよ」


そのまま数分見続けていると、画面のピンは動き出した。

電車が動いたのだろうか?

マップ上の線路の上をなぞるように動いている。


「……ん?ここは?なんだ」


「……」


仕事をしながら、数分間チラチラと様子見をするぐらいでピンの動きを見つめていると、やっとピンが別の駅で止まってから歩くような速度で動き始めた。


「はぁ?…こんなところに一体何しに来たんだ」


「…っ…」


「おいリンタロ…ウ…?」


やっと動きを見せたが意味もわからず溜息をつきながら、左隣に座っているリンタロウへ目をやる。

返事をしないリンタロウは額から頬の下まで伝わるような汗をかきながら、目を見開いていた。


「おい、おい!」


「あっ…え、ご、ごめん。何?」


「何?じゃないだろう。なんだ。なにか知っているのか?」


かなり強引にリンタロウの肩をつかみ、揺さぶるとリンタロウがこちらを振り向くと同時に

額から流れていた汗が滴り落ちる。

あのリンタロウがここまでして動揺する理由が俺にはわからない。


ユキナリはなぜ、こんな場所に…?


「…コウくん、ここ、ユキナリくんの小学生の時にいたところだよ…きっと、あの小学校の近くの…」


「はぁ?小学校?おまえは何を言っているんだ?」


小学校の近く?それがユキナリがここへ来るのにどう繋がると言うんだ。

ただリンタロウの表情を見るからにこれが普通では無いことは明らかなようだ。


「…ユキナリくんが言ってたでしょ?昔、自分の友達を死に追いやったって。自分が殺したって…」


「あぁそんなこと言っていたな。最近は過呼吸状態になるとよく名前を出している気がす……ま、まさか?!」


「…うん。その事件があった小学校の近くだ…。僕が狼ゲームを始める前に調べたから、この駅は見覚えがある」


「ユキナリはなんでそんな場所に?」


「そんなの僕に聞かれたって分かるわけないでしょ。でももしかしたら、ずっと言ってた友達って…まさかね?」


リンタロウの一言に空気は冷えて、しばらく沈黙が続く。


…リンタロウの言うことが本当であれば、話の紐は繋がる。

ただ、その友人はもう死んでるんじゃないのか?

友達との約束がもしその友人であれば、結局辻褄は合わないじゃないか。


なぜだ。いつもなら頭が回るのに、今回に限って、重要な時に限って上手く回らない。


「ねぇ…見て!ほら!やっぱりこっちの小学校に向かってるよ!」


「なにっ?!…本当だな…。おいリンタロウ」


「……コウくん、わかるよ僕も同じ考えだ」



嫌な予感がする。



全身に強ばる感覚がするのが伝わる。

なぜだ。

ユキナリの外出は何度かあったがその中でも今回はとびきり悪寒がする。


「コウくん、行こっか」


「あぁ同感だ。さっさと準備をしろ」


「うん♪」


お互い冷静を装いつつ、額から汗が滴るのは見ていないふりをする。


危険だ。早く行かなければ。




下手するとユキナリは……



急ぎ足で玄関へと向かい、俺達は駅までの道を何も考えることなく走っていった。



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