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塾のテストが返ってきた日
ひまりはいつになく肩を落として帰ってきた。
成績が振るわなかっただけやない、どうやらクラスの「天才」と呼ばれる少年に、手厳しい言葉を投げられたらしい。
「…パパ。東くんっていう子にね、『君みたいな凡人が医者を目指すなんて、時間の無駄だよ。親の顔が見てみたい』って言われちゃった……ごめんね」
ひまりの目に溜まった涙が、俺の胸に鋭い針を突き刺す。
……凡人? 時間の無駄?
何より、ワシの顔が見たいやと?
「……和幸、ちょっとそのガキの『親』がどんな御立派な面拝してるんか、調査しろや」
「兄貴、穏やかじゃないっすね……。調べてみたら、その東くんの父親、市内で有名な大病院の院長ですよ。超エリート一家です」
俺は眼鏡を指で押し上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「エリートか、上等や。和幸、次の保護者説明会、ワシも参加するぞ」
◆◇◆◇
保護者会当日
会場の最前列でふんぞり返り、周囲の保護者を見下すような視線を送っとる男がおった。
それが東の親父——東院長やった。
「……うちの息子はね、1を聞いて10を知る。才能のない子が同じ教室にいると、授業の質が下がるんですよ」
周囲に聞こえるような声で嫌味を吐く院長。俺は静かに立ち上がり、あいつの隣まで歩み寄った。
「……あんたが東院長か。ええこと言うな。確かに、医者には『才能』が必要や、やが、本当にそれだけか?」
俺の低い声に、院長がビクッと肩を震わせた。
「な、なんだ君は。…私は事実を言っているだけだ」
「……せやけどな。あんたの言う才能ってのは、ただの『計算の速さ』やろ? ……ワシが知っとる本物の医者はな、どんなに絶望的な状況でも、泥水を啜ってでも患者を救おうとする『執念』を持っとる奴や」
俺は院長の目を見据え、一歩踏み込んだ。
「……あんたの息子に、その覚悟はあるんか?人の命を背負う重みを、数字だけで片付けるような奴に、うちの娘の夢を笑う資格はあらへんぞ」
院長は俺の「圧」に気圧され、額に嫌な汗を浮かべて沈黙した。
周りの保護者たちも、俺の言葉にハッとしたような顔をしとる。
事務所に戻ると、ひまりが不安そうに待っとった。
「パパ……怒鳴ったりしなかった?」
「…まさか、教育的な『対話』をしてきただけや。……ひまり。東くんには、テストの点数じゃなくて、お前の『絶対に医者になる』っていう執念や姿勢で勝て。……それが、一番かっこいい勝ち方や」
ひまりはパッと顔を輝かせ、力強く頷いた。
「……うん!私、もっと頑張る!」
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#シリアス
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