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第五幕 複雑に絡んだものは自分ではほどけない
夜涼を感じる時間帯に蕗谷が僕と同じひとつ屋根の下にいる。蕗谷は叔母との会話に講じていて僕はただ居間でテレビを見ているしかなかった。とはいいつつ、もはや僕の意識はテレビに向けられておらず依然繰り広げられてる二人の会話に耳を傾けていた。どうやら叔母は学校での僕の様子を蕗谷に聞いてるようだ。普段蕗谷が生徒を褒めている所なんか見たことがない。蕗谷がなにを語るのか実をいうと、このとき僕は少し気になっていた。
「柳原くんはすごく良い子です。周りもよく見れていて…」
どうやら聞き耳を立ててみるに蕗谷は僕のことを褒めているようだった。思ってもみなかった言葉に僕は辛気臭いような複雑な気持ちになった。普段は褒め言葉なんて知らないような男がすこし微笑みながら生徒のことを語っている。
僕はこれを知ったらクラスの連中も蕗谷をみる目が少しは変わるんじゃないか…なんて思ってしまった始末だ。
「いただきます。」
叔父は結局同僚と飲みに行くということなので僕と叔母、そして蕗谷は一つの机を囲んで夕飯をとりはじめる。僕はぎこちなく口へと箸を運ぶ。よく考えれば、いやよく考えなくても生徒と教師が一つ屋根の下で夕食をとっているだなんておかしな話だ。
「柳原、学校は…楽しいか?」
そう僕が思っていた矢先蕗谷は慎重な口ぶりで僕に聞いた。
「…まあまあですかね」
僕は曖昧な返事をした。友人は阿多部や佐々木ができて楽しさに似たものを感じたりしたが、学校という一括りにすれば
まあまあ、という言葉が無難だった。
「そうか」
蕗谷はそれだけいうと次の言葉が見つからなかったのか再びだんまりとしてしまった。
ー答え合わせー
時刻は午後11時を回っていた。叔母からの提案で、というか決定事項のように僕と蕗谷は居間で雑魚寝することになった。
2人が寝る準備をする中、カチ、カチと時計の針が進む音だけが居間に渡る。
「先生…あの」
僕はずっと気になっていることを聞こうと口を開いた。
「なんだ」
「…今日の墓参りって…晴哉って人のですか…」
僕は慎重に、夢とあの放課後の出来事を答え合わせをするように聞く。
すると蕗谷は少し困惑気味に僕に聞く。
「なんでわかったんだ…?」
「いえ、実はこないだの放課後忘れ物をして教室に戻ったとき先生が晴哉って寂しそうに言ってたのを聞いてしまって、そうかなと…」
それも事実である、けれどその前に夢で墓とぬいぐるみキーホルダーを見たことは口には出さなかった。
「そうか…聞かれていたのか」
ふと漏らした独り言を聞かれていたことに少し恥じらいを抱いたのか少し蕗谷はバツの悪そうな顔をする。
このとき僕はただ亡くなってしまった昔の教え子の死を悲しみ、毎年墓参りに来ている。ただそれだけだと思っていた。
「昔、この地域の学校に勤めていてな。その時の生徒だったんだ」
蕗谷の顔は一見寂しそうにしているだけのように見えたがよく見ればその顔はどこか悔しがっているような顔に見えた。
「そうなんですね、じゃあその子のご両親には挨拶に行ったり?」
この質問をしなければ良かった。と後に後悔することになる。
「…いや、行けないんだ。」
行けない。なぜそう言うのだろう。ご遺族にとっても息子をずっと想ってお墓参りにまで来る人物をよく思わないなんてことはあるのだろうか。
「…なんでですか?」
僕はよそよそしく聞いた。すると
「…俺のせいだから。」
と蕗谷は歯を食いしばって言葉を紡いだ。
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