テラーノベル
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カーテンの隙間から差し込む鋭い陽光が、乱れたシーツの海を白く焼き付けている。 太宰は重い瞼をゆっくりと持ち上げ、焦点の定まらない瞳で、天井の木目をぼんやりと見つめた。
(……ああ、最悪だ。身体が重すぎる)
思考が回り始めると同時に、全身を支配する気怠い鈍痛と、熱を帯びた疲労感が這い上がってくる。 特に腰から背中にかけての感覚は、昨夜の「執拗なまでの蹂躙」を嫌というほど思い出させた。 あんなに余裕なく、独占欲を剥き出しにして、壊すような勢いで何度も名前を呼ばれ続けて――。
「……っ、」
不意に、耳の奥まで熱が逆流した。 太宰は慌てて片手で顔を覆ったが、指先が触れた首筋や鎖骨のあたりには、鏡を見ずとも分かるほど鮮明な「痕」が、あちこちに情事の証として刻まれている。 普段は死に場所を求めて彷徨っている自分が、今、この男の腕の中でこれ以上ないほど「生」を実感させられている。その事実が、何よりも彼を気恥ずかしくさせた。
「……水。……喉が、……」
掠れた、というよりは、なかば潰れたような自分の声に絶望する。一晩中、彼に請われるままに鳴かされ続けた代償だ。喉が焼けるように乾き、肺の奥まで熱が残っている。
少しだけ彼から離れて、サイドテーブルのグラスを――。 そう思って身を捩った瞬間、腰に回されていた、中也の逞しい腕がグイと力を増した。
「……ん、……っ」
背後から、中也の低く安定した寝息が聞こえる。 鍛え上げられた胸板が背中にぴったりと密着し、逃げ場を完全に塞ぐ。それどころか、中也の太い脚が太宰の長い脚を絡め取り、物理的な「重力」以上の力で彼をベッドに縫い付けた。
(……まだ寝てる。……このチビ、無意識に異能を使ってないかしら……重すぎるよ……)
普段の太宰なら、関節を外してでも、あるいは言葉巧みに意識を逸らしてでも、この拘束を抜けることなど造作もない。 だが、今の彼は体力の限界だ。それに、あまりに密着しているせいで、中也の肌の熱と、彼特有の荒々しくも落ち着く匂いが脳を麻痺させ、抵抗する意志をじわじわと削いでいく。
「……中也、……おい。……離したまえ……水が、飲みたいんだよ……」
蚊の鳴くような、湿り気を帯びた声で訴えてみる。 だが、中也は「……ん」と短く喉を鳴らすだけで、さらに太宰のうなじに鼻先を埋め、深く吸い込んだ。くすぐったい吐息が、昨夜の甘美な記憶を鮮烈に呼び起こし、太宰の背筋を不自然に震わせる。
(……このままじゃ、また捕まってしまう……)
太宰は必死に顔を背け、中也の腕を退かそうと指先に力を込める。 しかし、その必死な、どこか縋るような抵抗すらも、中也にとっては極上の誘いにしかなっていないということに、彼はまだ気づいていない。
「……ちゅう、や。……起きてよ、この短気。……帽子置き場……」
恨めしそうに、けれどどこか甘えた響きを隠しきれずに呟くと、太宰は力尽きたように彼の腕の中に沈み込んだ。
……その瞬間。 太宰の視界からは見えない背後で、中也の口角が僅かに、愉悦に満ちた弧を描いた。
中也は最初から、太宰が目覚めるよりもずっと前から起きていた。 赤くなって震える項も、掠れた声で自分を罵る情けない音も、逃げようとして結局は諦め、自分に背中を預けるその愛くるしい「降伏」も。 すべてを特等席で堪能するために、狸寝入りを決め込んで、この「獲物」を観察していたのだ。
(「……行かせるわけねぇだろ。……そんな声、俺以外に聞かせてたまるか」)
中也は心の中でそう独白し、傲慢なまでの独占欲を満足させる。 そして、愛おしさと欲望の混じった衝動に突き動かされ、太宰の肩口に、わざと深く、新たな印を刻み込むように唇を押し当てた。
「……っ! 中也、君……っ!」
「……おはよう、太宰。水なら、もう少し『鳴いて』からにしてやるよ」
重力使いの腕が、さらに強く、獲物を抱きしめた。
コメント
2件

めちゃ好きです!凄くかわいい…中也が離そうとしてないの本当に可愛い