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鬱病になりそう。いつだったか忘れたけど、なんかこのフレーズいいな、と思ったやつです。パクリじゃないです。女体化。
その行きつけのバーは、地下深く、地上を騒がせる喧騒も、組織の抗争も届かない真空のような場所だった。
カウンターの端、琥珀色の液体を揺らす太宰♀の隣に、中也が無造作に腰を下ろす。二人の間に挨拶はない。ただ、中也が注文した度数の強いウィスキーの氷が、カランと高く鳴った。
「……数えたら、今日でちょうど七年だよ。中也」
太宰♀が、グラス越しに中也の横顔を覗き込む。彼女の瞳には、七年という月日が磨き上げた、冷徹でいて執拗な光が宿っていた。
「……何がだ。手前が自殺に失敗し続けてきた回数か?」
「ふふ、それならもっと桁が多いよ。……私たちが、こうして『共犯者』として隣に座るようになってから、だよ」
太宰♀は、細い指先で中也のグラスの縁をなぞった。 七年前、二人は互いの首に刃を突きつけ合い、殺し合う寸前で「共存」という選択肢を奪い合った。以来、どちらかが跪くことも、どちらかが支配されることもなく、ただ背中を預け、あるいは喉元を狙い合いながら、ここまで歩いてきた。
「……七年、か。……クソほど長いようで、一瞬だったな」
中也は酒を一気に煽り、喉を焼く熱さを楽しむように目を細めた。 彼は太宰♀を必要としている。けれど、彼女がいなければ生きていけないわけではない。彼女が明日、ふっと煙のように消えたとしても、自分は独りで戦場に立ち、重力で世界をねじ伏せ続けるだろう。
太宰♀もまた、同じだった。 中也の隣は、世界で最も安全で、最も危うい特等席だ。彼を愛している。けれど、それは「彼がいなければ死ぬ」という脆弱なものではない。「彼がいるから、もっと高く、もっと残酷に羽ばたける」という、強者の選んだ傲慢な愛だ。
「ねぇ、中也。……あなたに溺れてはや七年。……そろそろ、息の仕方を忘れてしまいそうだよ」
太宰♀が、冗談めかして、けれどどこか切実に囁く。 「溺れる」という言葉。それは依存ではなく、底の見えない深海に二人で潜り続け、その水圧に耐え抜いている自負。
中也は、太宰♀の顎を指先で強引に上向かせ、その唇を奪うように塞いだ。 酒の味と、互いの生命力がぶつかり合う、短くも激しいキス。
「……息が苦しいなら、俺の空気を吸えよ。……手前が溺れて死ぬのを、俺が黙って見てるわけねぇだろ」
中也の手が、彼女の項(うなじ)を強く引き寄せる。 それは助けを求める手ではない。獲物を、あるいは唯一の対等な獲物を、逃がさないための拘束。
「……ふふ、やっぱり君は、私の期待通りの言葉をくれるね」
太宰♀は、中也の胸元を押し返すこともせず、むしろその熱に自らを焼き付けるように微笑んだ。 七年経っても、慣れることはない。 七年経っても、飽きることはない。
二人の関係は、完成することのない、永遠に更新され続ける「闘争」という名の恋だ。
「……さて。七年目の夜は、これからだよ。中也」
「あぁ。……明日の朝まで、存分に溺れさせてやるよ」
二人はグラスを置き、地下の静寂から、また新しい「二人だけの戦場」へと足を踏み出していった。 そこには、依存という名の鎖はない。 あるのは、ただ、お互いを渇望し続けるという、残酷なまでの自由だけだった。