テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する






一次創作!初めてかも!




適当に書きます!






『君のいない春に咲く』






あの日、桜が舞っていた。

葵は駅のホームで、誰かを待つふりをして空を見ていた。薄紅の花びらが、風に乗って彼女の髪にふわりと絡まる。春はこんなにも優しいのに、どうして心はこんなに痛むのだろう。



「——葵。」




その声は、記憶の奥にしまったはずだった。

ゆっくりと振り向くと、そこに立っていたのは、蓮だった。変わらない目、変わらない笑い方。ただ一つ違うのは、もう彼が自分のものではないということ。



「久しぶりだね。」



蓮は少し照れくさそうに笑った。その笑顔が、いちばん好きだった。でももう、好きと言ってはいけない人になってしまった。



「……三年ぶり、かな。」



「うん。あの時、ちゃんと話せなくて、ごめん。」



心臓が、鈍く痛む。



「私のほうこそ。何も言わずに、いなくなって。」



蓮は少し俯いて、ポケットから小さな手紙を取り出した。



「これ、ずっと持ってた。君がくれた最後の手紙。あの日、駅で受け取れなかったけど——なぜか、ここに来たら渡さなきゃって思った。」



葵は驚いてその封筒を見つめた。それは彼女が、蓮と別れる前日に書いたものだった。渡す勇気がなくて、ポストにも入れられなくて、ただポケットにしまったまま、あの日去った。



「なんで……これ、蓮が持ってるの?」



「君が帰ったあと、君のお母さんが届けてくれたんだ。ずっと読めなかった。読むのが怖くて。でも、今日読むって決めた。」



蓮はその手紙を静かに破った。そして、朗読するように声に出した。



「“蓮へ。好きです。今も、きっと明日も、来年も——あなたの幸せを願えるほどに、好きです。”」



葵は目を伏せた。声が震えていた。



「でも、それじゃダメだったんだよ。蓮のそばにいると、自分が壊れていく気がした。大好きだから、離れた。わかる?」



蓮は黙って、目を閉じた。しばらくして、ふっと笑った。



「わかるよ。俺も、君の幸せを願ってた。でも、願うだけじゃ、届かないんだな。」



風が吹き、桜がまた舞った。

そして、ふたりの距離は、少しずつ遠ざかっていった。

——もう、手を伸ばせば届く距離じゃなかった。

『君のいない春に咲く』

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚