テラーノベル
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一次創作!初めてかも!
適当に書きます!
あの日、桜が舞っていた。
葵は駅のホームで、誰かを待つふりをして空を見ていた。薄紅の花びらが、風に乗って彼女の髪にふわりと絡まる。春はこんなにも優しいのに、どうして心はこんなに痛むのだろう。
「——葵。」
その声は、記憶の奥にしまったはずだった。
ゆっくりと振り向くと、そこに立っていたのは、蓮だった。変わらない目、変わらない笑い方。ただ一つ違うのは、もう彼が自分のものではないということ。
「久しぶりだね。」
蓮は少し照れくさそうに笑った。その笑顔が、いちばん好きだった。でももう、好きと言ってはいけない人になってしまった。
「……三年ぶり、かな。」
「うん。あの時、ちゃんと話せなくて、ごめん。」
心臓が、鈍く痛む。
「私のほうこそ。何も言わずに、いなくなって。」
蓮は少し俯いて、ポケットから小さな手紙を取り出した。
「これ、ずっと持ってた。君がくれた最後の手紙。あの日、駅で受け取れなかったけど——なぜか、ここに来たら渡さなきゃって思った。」
葵は驚いてその封筒を見つめた。それは彼女が、蓮と別れる前日に書いたものだった。渡す勇気がなくて、ポストにも入れられなくて、ただポケットにしまったまま、あの日去った。
「なんで……これ、蓮が持ってるの?」
「君が帰ったあと、君のお母さんが届けてくれたんだ。ずっと読めなかった。読むのが怖くて。でも、今日読むって決めた。」
蓮はその手紙を静かに破った。そして、朗読するように声に出した。
「“蓮へ。好きです。今も、きっと明日も、来年も——あなたの幸せを願えるほどに、好きです。”」
葵は目を伏せた。声が震えていた。
「でも、それじゃダメだったんだよ。蓮のそばにいると、自分が壊れていく気がした。大好きだから、離れた。わかる?」
蓮は黙って、目を閉じた。しばらくして、ふっと笑った。
「わかるよ。俺も、君の幸せを願ってた。でも、願うだけじゃ、届かないんだな。」
風が吹き、桜がまた舞った。
そして、ふたりの距離は、少しずつ遠ざかっていった。
——もう、手を伸ばせば届く距離じゃなかった。
コメント
2件
私も1次創作作ろうかな...