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鷹村視点_
◇(おいおい、会長も焼きが回ったんじゃねえのか……?)
リングの反対側に立つガキ――刃向未来(はむかいみらい)を見下ろしながら、俺、鷹村煉(たかむられん)は心底呆れていた。
プロデビューを間近に控えた俺の相手が、半年前に入ってきたばかりのひょろい中学生だと?
ヘルメットみたいなヘッドギアを深々とかぶり、14オンスの大きなグローブを顔の前で構えている。
その足は、見るからにガタガタと震えていた。
(マジで怯えてんじゃねえか。かわいそうに、恐怖で吐きそうなんじゃねえの?)
会長が何を聞きつけてこのガキを気回りさせてんのか知らねえが、格闘技は甘くねえ。
ちょっと基礎練習の形が良くなったくらいで、本物の殺気と拳の痛みに耐えられるわけがないんだ。
「へっ、会長。こんなもやしっ子とやれって? 壊しちゃいますよ」
俺はニヤつきながら、グローブをパンパンと叩き合わせた。
さっさと一発入れ込んで、リングの厳しさを教えて降りさせてやるのが優しさって近道だろ。
ゴォン―――。
小さなジムのゴング代わりに、会長が缶を叩く重い音が響いた。
「スパーリング、始め!」
俺はゆっくりと間合いを詰める。
対するガキは、ガードをカチカチに固めたまま後ずさりする。完全に腰が引けてやがる。
(ほらな。逃げることしか頭にねえ)
俺は左足をグッと踏み込み、牽制の左ジャブを放った。
手加減はしてやったが、プロの踏み込みだ。風を切る「シュッ!」という鋭い音がリングに弾ける。
普通の素人なら、この威圧感だけで目が泳いでガードを固め直すか、パニックになって後ろにひっくり返る。
――だが。
「……あ?」
拳を突き出した瞬間、妙な違和感が背筋を走った。
ガキの目が、変わっていた。
さっきまでの怯えたような、怯えきった丸い目じゃない。
ヘッドギアの隙間から覗くその瞳は、まるで静かな水面みたいに澄み切っていて――俺の拳が届く前に、**もう「そこ」にいなかった。**
すっ。
本当に紙一重。
俺の左ジャブが、ガキの右頬の産毛をかすめて空を切る。
(……は? かわされた……?)
偶然だ。たまたま首を傾けたタイミングが重なっただけだ。
イラッとした俺は、間髪入れずに右のストレートを叩き込もうと体重を乗せた。
だが、その瞬間――
俺の視線と、ガキの視線がバチッと交差した。
恐怖で震えていたはずのガキの身体から、ガタガタという無駄な力みが一瞬で消え失せている。
それどころか、俺が右拳を振り抜く**“前”**に――ガキはもう、右足で床を蹴り、身体を深く沈め始めていた。
(なッ……!? なんで俺が右を打つって、分かってやがる……!?)
俺の右腕が空を切る。
完全に前傾姿勢になった俺の視界、無防備に空いた顎の下。
そこに――半年間、会長に嫌というほど叩き込まれていたはずの、あの「綺麗すぎる基本の右」が、下からぬっと突き出されてくるのが見えた。
(あ、ヤバ――)
ドンッッ!!!!
脳揺れる衝撃と、顎を突き上げる乾いた手応え。
世界がぐにゃりと歪み、俺の視界からジムの天井が消えた。
コメント
1件
えっ、マジでここで終わるの!?😭💦 第4話、一気に読んじゃったよ〜! 鷹村さんのプロの余裕からの「あ、ヤバ」って脳内ナレーション、めっちゃ熱かった!🔥 あのヘッドギアの隙間から覗く刃向くんの“静かな水面みたいな目”、怖すぎてかっこよすぎて鳥肌立ったわ…。半年間の基礎練習がここで花開く瞬間、想像しただけで胸熱すぎる😭💕 続きが気になりすぎて今夜眠れそうにないよ!次回も楽しみにしてるね〜っ✨