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「……こそこそ隠れて不意打ちとは、復讐が聞いて呆れるな」
姿の見えない敵に対し、言って無駄だと分かっていても文句を言うくらいはいいはずだ。
そう思って口を開くと、
「違うな。我らは貴様ごとき魔法士くずれなどに復讐する理由は無い。気配すら感じられぬ弱者と分かって失望しただけに過ぎん!」
ラクルから外に出た直後は声を近くに感じた。それ故に姿でも隠していると思っていたが、前後左右を見渡しても人の気配は無い。
そうなるとこれは、
「……思念の飛ばしか」
「イスティさま?」
「ここには初めから誰もついて来ていないし、おれの前にいるわけでもないってことだ」
「え、でも、わらわにも聞こえるなの」
「おれに聞こえるから、フィーサにも聞こえるってことだろ」
倉庫に来た女にでも雇われた、もしくは丁度良く紛れて様子でも見に来たか。それにしても魔法士くずれとか笑わせてくれる。おれのジョブは未だに不確定だというのに。
神族によって確かに属性魔法の力は高まったが今はそれだけだ。魔法だけ強くなっても他の力が弱ければ無様に切り傷をつけられるということになる。おれの今の力は、確かにガチャによって装備やスキルを覚えられた状態だ。
だが相手に舐められている時点で敵が畏怖するような強さは得られていない。そうなると、復讐戦が終わったら力をもっと求めに行かなければ駄目だ。
「止まれ! じきに貴様がこの地に沈むまで、遊ばせてやる」
思念の飛ばしも範囲外に近づいたようだ。おれが呟いたことに返事を返すことが出来たのもラクルからほど近いところまで、ということも分かった。
「遊んでくれるわけか。それは楽しみなことだな!」
「……イスティさま、わらわは何も聞こえてこないなの」
「だろうな。ここから一歩でも先に進めば敵も把握出来なくなるわけだ」
「どういうことなの?」
思念でのやり取りは上手く言いづらいが、
「遠距離系ジョブでも限界はある。ここは戦いの場でもある獣狩りの縄張りの場所だ。森も水も近くに無いし、戦い放題ってやつだな」
「そう言われればそうだったなの……。イスティさま、どういう風に戦うなの?」
「ん? もちろんフィーサと一緒に戦うぞ」
「ほえっ? ま、魔法は使わないなの?」
相手が魔法を使う精鋭揃いならそれもいいが、使うまでも無いレベルのはず。倉庫に来た女はおれの強さを偽物と言っていた。しかしクエスト依頼の連中はおれの強さを多少知っている。思念飛ばしの敵は魔法の強さをどこかで見知り、確かめに来たといったとこだろう。
「イスティさま、どうするなの?」
「……そうだな。フィーサには、闇と氷の属性を付与しておく。でもすぐに使わないから、おれが解放させるまではフィーサの強さだけ動く」
「わ、分かったなの!」
何も無い平地で遊んで時間を潰そうかと思っていたが、何も無い平地だからこそ敵が選んだ場所だ。恐らく見えない地面の至る所に何かを仕掛けている。もちろんそんなのに引っかかる間抜けさは無い。
――無いが、知らないフリをしておく方が面白いというものだ。
◇◇
特に動き回ることなくじっとしていると、ぞろぞろとした人数の影が向かって来るのが見えた。その中には、何故かルティたちの姿があった。
「プッ……フフップププ。イ、イスティさま……あの子たち、おかしいなの」
「しっ、あれでも変装しているつもりなんだろ。全く、バレバレだろうに」
シーニャはフードで耳を隠し、ルティはメイドエプロンではなく似合わない鋼鉄製の鎧を着ている。ミルシェに至っては、包み隠さず王女として参加しているようだ。
食べ過ぎで動けなくなっていた彼女たちだったが、まさか敵の助っ人側に参加しているとはな。もちろんおれを助けるためだろうが、愉快な仲間すぎるぞ。
追放連合の連中はルティたちを除けば全部で二十数名弱だ。思念を飛ばして来たような奴はその中には含まれていないようにも見える。ほとんどがラクルで募った義勇兵のようで、魔法を使えそうな術者は見えていない。
ルティはともかく、シーニャとミルシェは支援要員として参加したのだろうな。そして声が聞こえる所にまで近付いて来た所で、集団の先頭にいる女が声を荒らげる。
「まがいもの、アック・イスティ!! 獣に化け、偽の力とレアな爪でいい気になりやがった追放者め! 二度は通用しないことをあたしらが思い知らせてやる!!」