第3章 夜明けのプリン
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでくる。
ほんのりと温かい色が、まだ静まり返った部屋をやさしく照らした。
「……ん、朝か」
葛葉は目を細めながら体を起こした。
ソファに寄りかかったまま眠っていたらしく、首筋が少し痛む。
隣を見ると、ローレンがまだ静かに眠っていた。
赤い髪が光を受けてやわらかく揺れ、
穏やかな寝息が部屋の中に響く。
いつもは理性的で冷静なローレンの、
こんな無防備な表情を見られるのは――たぶん、自分だけだ。
「……ずるい顔してんなぁ」
葛葉は苦笑しながら、そっとローレンの髪を指でなぞった。
触れた感触が、思っていたよりもずっと柔らかくて、
胸の奥が少しだけざわついた。
「おはよう」
ローレンが小さく目を開けて呟く。
まだ寝ぼけた声で、いつもの低音より少し柔らかい。
「お前、起きんの早ぇな。俺、二度寝するわ」
そう言って目を閉じようとする葛葉の肩を、ローレンが軽く叩いた。
「朝ごはん、ちゃんと食べろよ。昨日から何も食べてないだろ」
「……プリンならあるけど」
「それはごはんじゃない」
ローレンが呆れたように笑いながら立ち上がる。
キッチンに向かう彼の背中を見ながら、葛葉はぼそっと呟いた。
「なんでお前、そんなに優しいんだよ」
「好きな人にくらい、優しくするだろ」
ローレンの言葉に、葛葉の動きが止まった。
いつもの冗談でも、軽口でもなく、
まっすぐで、逃げ場のない「好き」の響き。
「……お前、朝から爆弾落とすなよ」
「お前が寝ぼけてるうちに言っとこうと思って」
ローレンは振り返らず、肩越しに笑った。
その笑顔が、朝の光に照らされてやけに眩しい。
葛葉は手の中でスプーンをくるくると回しながら、
小さく息を吐いた。
「……じゃあ、俺も一個だけ、言っとくわ」
「なに?」
「俺も――お前のそういう真面目なとこ、けっこう好きだよ」
ローレンは一瞬だけ目を見開き、
すぐに照れ隠しのように笑って顔をそらした。
「……今さら、言うなよ」
「今だから言えんの。朝だし」
「理屈になってねぇ」
笑い合う声が、窓の外の光に溶けていく。
テーブルの上には、二人分のプリンが並んでいた。
その小さな甘さが、夜よりもずっと優しく感じられた。







