テラーノベル
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水曜日。
朝の教室。
「おはよう、玲くん!」
「……おはよう」
星羅はいつものように笑っている。
けれど――。
「……眠そうだな」
「え?」
「昨日遅かった?」
「うん。ちょっとだけ」
「何してた?」
「配信」
「また?」
「うん♪」
玲は少し呆れたように笑う。
「無理するなよ」
「……」
星羅は一瞬黙る。
「心配してくれてる?」
「まあ」
「……嬉しい」
小さく笑った。
昼休み。
二人で弁当を食べていると、窓の外から突然大きな音がした。
――ドンッ!
「……!」
星羅の肩が跳ねる。
「どうした?」
「……なんでもない」
しかし、顔色が少し悪い。
「星羅?」
「大丈夫」
そう言いながら、星羅は玲の制服の袖を掴んだ。
「……」
「……ごめん」
「何が?」
「ちょっと……大きい音、苦手で」
「そうなのか」
「うん……」
玲は窓を見る。
外では体育の授業中らしく、ボールが壁に当たった音が響いていた。
「じゃあ、ここにいれば?」
「……え?」
「窓から離れたほうがいいだろ」
玲は自分の席を少し動かす。
星羅の席を窓から遠ざけるように。
「……ありがとう」
「別に」
星羅は玲を見る。
――優しい。
こういうところ。
だから好き。
もっと好きになる。
放課後。
文化祭準備をしていると、また大きな音がした。
「……!」
星羅が目を閉じる。
「星羅」
「……ごめん」
「大丈夫か?」
「うん……」
玲は少し考える。
そして、自分のイヤホンを差し出した。
「これ使う?」
「……いいの?」
「ああ」
「……ありがとう」
星羅はイヤホンを受け取る。
耳につける。
静かな音楽が流れる。
「……落ち着く」
「ならよかった」
星羅はイヤホンをつけたまま、玲の肩に少しだけ寄りかかる。
「……少しだけ、このままでいていい?」
「別に」
「……ありがとう」
玲は何も言わない。
星羅は目を閉じる。
玲の隣。
玲のイヤホン。
玲の優しさ。
それだけで安心できる。
「玲くん」
「ん?」
「私ね」
「何?」
「玲くんの前だと、変になっちゃう」
「……?」
「いつもは平気なのに」
星羅は小さく笑う。
「玲くんには、弱いところ見せてもいい気がする」
「……そうか」
「うん」
そのとき。
教室の入口から女子生徒が顔を出す。
「黒瀬くん、ちょっといい?」
「何?」
「先生が呼んでるよ」
「ああ。分かった」
玲が立ち上がる。
星羅はその背中を見つめる。
「……」
胸の奥が、少し寂しい。
玲くんが離れる。
ほんの数分なのに。
どうしてこんなに嫌なんだろう。
星羅は自分でも驚いていた。
「……私、重いな」
小さく呟く。
しばらくして玲が戻ってくる。
「待たせた」
「ううん」
「帰るか?」
「うん!」
星羅はすぐに笑顔に戻る。
二人で帰る。
途中、星羅が言った。
「玲くん」
「ん?」
「今日のこと……誰にも言わないでね」
「大きい音が苦手なこと?」
「うん」
「分かった」
「約束?」
「約束」
星羅は安心したように笑う。
「……玲くんだけが知ってる秘密」
「そうだな」
「ふふっ」
それが嬉しかった。
夜。
星羅は自室で、今日のことを思い出していた。
玲のイヤホン。
玲の声。
玲の隣。
「……秘密」
誰にも知られていない。
自分の弱いところを知っているのは――玲だけ。
「私だけの秘密じゃない」
玲くんと共有する秘密。
星羅はそれがたまらなく嬉しかった。
そして。
机の上に置かれた「玲くんのこと」と書かれたノートを開く。
新しいページ。
そこに書く。
**『大きな音が苦手』**
少し迷って、その下に。
**『玲くんがそばにいると安心する』**
さらにその下に――。
**『玲くんには、弱い私を見せてもいい』**
ペンを置く。
「……これからも、いっぱい秘密を増やそうね」
星羅は笑った。
その秘密がいつか――。
二人を強く結びつけるものになるのか。
それとも。
星羅の独占欲をさらに深くするものになるのか。
今はまだ、誰にも分からなかった。
#青春恋愛
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夏希(なつき)
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奇蹟あい
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コメント
1件
「星羅の『玲くんの前だと変になっちゃう』って台詞、すごく好きです。普段は平気なのに、安心できる人の前でだけ不意に弱さが出る――その感覚、すごくリアルで。イヤホンを貸す玲くんのさりげない優しさも、『秘密』を共有することに喜びを感じる星羅の心情も、静かに染みました。最後のノートの描写がまた、彼女の想いの深さと少し危うい独占欲を感じさせて、続きが気になりますね。」