若井side
救急車に乗り込んだとき、俺はとにかく冷静を装ってた。
だけど、心臓はずっとバクバクしてて、何度も元貴の顔を覗き込んでた。
意識は戻らないまま、顔は青白くて、まるで……いや、縁起でもねぇ。
病院に着くと、すぐ処置室に連れていかれた。
俺らはそれ以上、何もできなくて、ただ廊下のベンチで待つことしかできなかった。
「……無理、してたんだな。やっぱ」
ぽつりと漏れた自分の声が、静まり返った空間にやけに響いた。
藤澤side
若井の隣で、僕はずっと両手を組んで祈っていた。
祈る、なんて柄じゃないけど、他にできることがなかった。
ずっと元貴は平気そうな顔してた。
笑って、冗談言って、誰よりも元気そうで。
でも、本当は気づいてた。
あの笑顔の奥で、少しずつ何かが削れていくのを。
「元貴……ごめんね……僕、何もできなかった」
声にならない声で呟いた。
もし、僕がもう少しちゃんと向き合ってたら。
もっと強く踏み込んでいれば。
今、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
若井side
涼ちゃんの肩が震えてるのに、俺は何も言えなかった。
励ましの言葉も、慰めも、全部薄っぺらく感じた。
だからただ隣に座って、沈黙を選んだ。
時間が過ぎるのがやけに遅くて、スマホの時計を何度も見た。
処置が終わる気配もない。
廊下の静けさが、やたらと重たく感じた。
ようやく看護師が声をかけてくれたのは、救急搬送から二時間以上経った頃だった。
「ご家族の方……ではないんですよね。ご友人……?」
「はい、家族みたいなもんです」
思わずそう返していた。
看護師さんは少し驚いた顔をして、でもすぐに頷いた。
「処置は終わりました。幸い、命に別状はありません。今は点滴で眠っている状態です。
おそらく、数日中には意識が戻ると思いますよ」
藤澤side
「……よかった……っ」
ほっとした瞬間、目の奥がじんと熱くなった。
そのまま声を上げて泣きたくなったけど、なんとか堪えた。
今、泣いたら全部崩れそうで怖かった。
病室に案内されて、元貴の寝顔を見たとき、胸がぎゅっと締めつけられた。
やっぱり、いつもみたいに冗談を言って笑ってるほうが、ずっといい。
目を閉じて動かないその姿は、やけに儚く見えた。
「ねぇ、若井……元貴、ほんとに……起きるよね?」
「……あぁ。絶対、起きる」
そう言った若井の声は、少しかすれていた。
彼も不安なんだろう。それでも、涼しい顔してるのは、
たぶん、僕を安心させるためだ。
若井side
何もできない時間ってのは、本当に長い。
ただそばにいて、起きるのを待つしかない。
それでも、俺はここにいるって決めた。
たぶん、涼ちゃんも同じだ。
あいつが目を開けるまで、
また、いつもの元貴に戻るその瞬間まで、
この場所を離れるわけにはいかない。
コメント
2件
文章から儚さが伝わってくる...🥹 体調不良ネタってみんなの友情を再確認出来るみたいで好き🤭(語弊)