テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あれから黒田君と付き合い始めてしばらく経った。
まだお互いに名前を呼び合うのが慣れずにいる。
何度か2人で出かけたりもしているが、手もまだ繋いでいない。
そして今日は日暮さん夫婦と黒田君のバイト先に来てみた。
そこは色々なジャンルのアニメ、ゲーム、トレーディングカードなどのお店が入っているビルだった。
「よくあの子許可出したね。絶対拒否だと思ってた。」
「私も黒田君がいいって言ってくれたのが意外で、ビックリしてます。」
「じゃあ、私は白石さんと一緒に行って来るから、もし新刊とか出てたら確保して欲しい。」
「BLは買わない。」
「新刊とか」
「買わない。」
「誰も気にしてないから!大丈夫だから!」
「絶対買わない!」
なにやら購入するもので押し問答が始まってしまった。普段優しい旦那さんがあれだけ嫌がるのだから余程のものを頼んでいるんだろう。
「あやちゃんは俺がGLとかエロ本買ってきてって言ったら、普通買える?」
「余裕。」
「マジかよ•••。」
ドヤ顔の日暮さんに旦那さんが頭を抱えていた。
「じゃあ、行ってくるね!帰ったらまた素材探しとどっかのパーティに野良させてもらおうね!今日こそ装備揃えて倒しに行こう!」
「わかった、気をつけてね。白石さんもうちのをよろしくね。」
そう言って解散する。
エスカレーターでしばらく移動する。
各フロアにいる人の層はバラバラだ。
「意外と小さな子もいるんですね。」
「しばらく前に比べたらだいぶ市民権得てきてるし、メジャーになってきたのかもね。」
そう言って目的のお店に着く。
キャラクター雑貨や漫画が作品ごとに並んでいる。
「日暮さん達は同じゲームで知り合ったんですよね?やっぱり他も共通の趣味とかあるんですか?」
「全然!好きなアニメのジャンルは違うし、ゲームのジャンルもそれ以外は違うよ。アニメなら私はバトル系とかが好きなんだけど、旦那は萌え系好きだし。他のゲームなら私はパーティ系とかRPGが好きなんだけど、旦那は格ゲーだったりね。」
「•••やっぱり好きな方が楽しいですか?」
「まぁ、合った方が楽しいかもしれないけど、お互いの趣味が違ってもそれを否定しないのが一番大切なのかもね。趣味ごと愛する!みたいな。白石さんはセラウス君の趣味は苦手? 」
「いえ、ただ、わかってあげられないのが、なんだか申し訳なくて。」
「無理に理解しなくていいよ。本当に。否定せず、受け入れる。それだけで十分なんだから。」
そう話ながら日暮さんは次々にグッズを籠に入れる。
そんな時に黒田君が着ていた服のキャラクターのキーホルダーを見つけた。思わず手に取ってしまった。
「これ。」
「あ、セラウスとエリナのだ。」
「これが例の。」
マジマジと見てしまう。
「白石さん、日暮さん、お疲れ様です。」
「お疲れー。」
「お疲れ様。」
バイト姿の黒田君だ。普段と違うエプロン姿が新鮮だ。
「ベイルさんは?」
「他の階で物色中。」
「そうですか。あの、白石さん•••変じゃ、ないですか?」
「ううん。変じゃないよ。新鮮な感じがする。 」
「そうですか。」
照れるようにはにかむ黒田君の姿がかわいく思える。
「今日バイト早上がりなんでしょ?私達は素材集めがあるから、白石さんのこと頼んでいいかな?」
「はい。 」
まさかこんな形で投げ出されるとは。
仕事の時はどんな事でも最後まで一緒に担当してくれるのに。
「じゃあ下のカフェで待ってるね。」
「頑張ってね。」
「はい、では後で。」
私達は会計を済ませてカフェへ向かう。
今は流行りのアニメとコラボしているそうだ。 旦那さんも少しして合流した。
そしてオマケのランダムバッチとにらめっこしている。
「あー、外れた。」
「嫁に嫌われたね。」
「あやちゃんは?」
「あなたの嫁当てたよ。」
「えー!ずるい!俺の方が愛してるのに!」
「白石さんは?」
「これです。」
「「シークレット!?」」
2人の声が重なる。
「やはり、物欲の神とそのセンサーには来ないのか。」
「それ一番当たりのやつだから、よかったね!」
(後で黒田君にあげよう。)
そんな事を考えながらカバンにしまう。
「そういえば、2人は普段どう呼びあってるの?」
「下の名前で。」
「ほぅほぅ。」
「呼ぼうと思うんですけど、なんか、恥ずかしくて。お互い名字呼びが多いです。」
「あやちゃん!眩しいよ!穢れがないよ!」
「気を確かに!せめて、手は繋いだはず!」
「•••まだです•••。」
「ぐはぁ!」
「あやちゃん! 」
急な2人の寸劇が面白くて笑ってしまう。
「ピュアか!」
「どのタイミングなのかわからなくて。」
「あー、勢い!勢いよ!がっと!」
力説する日暮さんに旦那さんがため息を着く。
「白石さん、ちゃんとタイミングは来るから。焦らないで。こんな脳筋の言うことは無視してね。」
「タイミング、ですか。」
「うん、だから焦らなくて大丈夫。2人のペースがあるんだから。」
「はい。」
「遅くなりました!」
バイト終わりの黒田君と合流する。
しばらくして日暮さん夫婦は帰られた。
私達がお店から出る時には既に日暮さん達が会計を済ませてくれていた。
外はもう夕方だ。
「なんだか気を遣わせたのかな。」
「今度お礼しないとですね。」
「そういえば、黒田君、これあげる。」
先ほどのランダムバッチを黒田君に渡す。
「いいんですか?ありがとうございます!」
「私にはこれがあるから。」
そう言って買ったセラウスとエリナのキーホルダーを見せた。
「! 」
黒田君が驚いた顔で私を見た。
「黒田君が近くにいるみたいで。買っちゃった。」
「白石さん。」
「なに?」
「•••やっぱり、好きです。改めて。」
「ふふ、ありがとう。」
そう言って2人で駅へと向かう。
なんだかソワソワしてしまう。
未だに名前で呼べないし、たまに黒田君が昔を思い出してしまうこともある。それでも2人で少しずつ乗り越えてきているのだ。
「あの、美香さん。」
「あ、はい。」
気付けば帰宅時間帯となっており、人が増えてきている。
黒田君は何かを言いたげだ。
「•••すみません、嫌なら、言ってください。」
そうして黒田君の右手が私の左手を包んだ。
私よりも大きな手だ。
「人、増えてきたから•••はぐれないように•••。」
「うん。」
少し強く握り返してみる。
そんな私の腕を黒田君はそっと引き寄せた。
体は密着しない距離は保ったまま。
(本当、心臓がうるさい。)
そんなことを感じながら幸せを噛み締める。
あの日、あの時
変な人に遭遇したと思った
神様、どうかあの人が話しかけてきませんように、と強く祈った
それが今は大切な人となって隣にいる
本当に不思議な縁だ
今でも神様に心の中で祈る
どうかこのまま、幸せな時間が続きますように、と
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!