テラーノベル
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海は、想像以上に静かだった。
静かすぎて怖かった。
1日1食。
魚を釣り、海藻を煮て、雨水を集める。
波が穏やかな日もあれば、風が乱れ、ボートが大きく揺れる日もあった。
俺は毎晩、航海日誌をつけた。
記録を書かないと、自分が何者なのか分からなくなりそうだった。
ーーー俺は今日、どこにいて、何をして、なぜ生きているのか?
海上では全てが曖昧になる。
時間の感覚も、自分の存在も、ボートの上では境界がぼやけていく。
孤独は、波より静かに、確実に俺を削っていった。
夜になると、星の位置で進む方向を決める。
星を頼りにしたのは生まれて初めてだった。
だが、不思議と迷いは無かった。
進むべきは”前”だけなのだから。
10日目の夜、海は鏡のように静まり返っていた。
雲一つなく、星空だけが広がっている。
その時、不気味な錯覚が起こった。
ーーこの世界には、俺と星だけしかいないんじゃないか?
ゾンビの存在も、隔離施設も、世界の危機も、全ては俺の幻覚ではないのかという疑念が胸をよぎった。
だが回覧板は手元にある。
重い木の感触だけが現実を示していた。
孤独に飲まれそうになるたび、
俺はその板を抱きしめて眠った。
まるで、自分と世界を繋ぐ最後の命綱のように。