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修学旅行当日。
新幹線の中は、朝からどこか浮き足立った空気に包まれていた。
「やっぱテンション上がるよね〜」
「まだ出発したばっかじゃん(笑)」
「ガム食べる?」
賑やかな声があちこちから聞こえる。
「……」
こはるは、窓の外をぼんやりと眺めていた。
(修学旅行……)
ふと視線を横に向ける。
少し離れた席。
雪斗くんと陽向くんと百武くんの3人が話をしている。
ふと雪斗と目があったが、雪斗は少し困った顔で笑い、また視線を戻して会話に戻っていった。
こちらも渚と紅葉が今日の日程についての話をしていた。
「初日のグループ行動。坐禅体験のコースだっけ?」
「そうだよ」
「紅葉さんがどうしてもこの行き先がいいって言っていましたけど、何か理由があったんですか?」
「もちろん坐禅だよ。」
「なんでわざわざ坐禅なんて体験しないといけないのよ!」
「あれ……足が痺れるんですよね……」
月での所作訓練で天ちゃんに叩かれたことを思い出し、こはるは少しだけ肩を落とした。
「雑念を払い、自分と向き合うんだよ」
「今の自分と…?」
「そう。自分の気持ちと。特に今の渚には必要だと思うしね」
「ぐぬぬぬ………」
(自分の気持ちと向き合う………か………)
⸻
現地到着。
「あっ………」
「おっ………」
鉢合わせる雪斗たちのグループとこはるたち。
「雪斗くんたちもここだったんですね!」
久しぶりにちゃんと話せて嬉しそうに声をかけるこはる。
「こはるたちもここだったんだ。」
「はい!」
「こっちは俺が半分無理やり連れてきた(笑)」
「私は強制連行です!」
「ちょっと言い方」
少しだけ空気が和らぐ。
「えっと……その……」
「まぁ、坐禅とか普段やらないしな」
「だよね…。」
渚と陽向。
言葉は交わすが、相変わらずぎこちない。
「渚さん!よかったら⸻」
ガシッ!
「よし!班長!集合場所はあっちだったよな!」
百武の首に腕を回し、雪斗が強引に流す。
「陽向も行くぞ!」
「お、おう!」
そのまま男子組は去っていった。
「あっ………」
少し寂しそうに見送るこはる。
去り際、雪斗が小さく”ごめん”のジェスチャーをした。
⸻
「まだ、ちゃんと話してないでしょ?」
「……」
渚が視線を落とす。
「……一応は、お互いに謝ったんだよ」
「でも?」
「……」
「……どう話せばいいか、分かんなくなっちゃって…」
ぽつりと呟く。
「ちゃんと謝りたいのに……」
「……そっか」
少しだけ間を置いて。
「坐禅……ちゃんとやろうね。」
「はい」
「……うん」
⸻
夜。
布団の上。
「足が痛いです………」
「私は叩かれすぎた……。」
「あれって希望制だよね?なんでそんなに叩かれにいったの?」
「隣で音がなるたび、私びっくりしてましたからね?」
「ごめん(笑)」
渚が天井を見ながら言う。
「考えても考えても雑念ばっかりでさ。」
「今までの関係が居心地良すぎて。」
「好きなのに、それを伝えたら……」
「今の関係が壊れるかもとか色々考えちゃって」
「……」
こはるは静かに聞いていた。
「そしたらもう叩かれるしかないかなって(笑)」
渚が笑い、紅葉も釣られて笑った。
「でもさ」
紅葉が続けて言う。
「それも含めて、楽しいんじゃないの?」
「そうなのかな?」
「私はしらないけど(笑)」
「なんかもう色々考えてたら疲れちゃった。こはるみたいに、自分の気持ちをドストレートに伝えられたら楽なのになぁ!」
「あ、こはるはどう思う?」
「えっ?」
突然話を振られて、こはるは少し慌てた。
「その……好き、とか……」
少し考える。
「……よく、分からないです」
「だよね(笑)」
「でも……」
少しだけ言葉を探して、
「一緒にいると、楽しい。もっと一緒にいたいって思うのは……好き、なんですかね?」
「……」
渚と紅葉が一瞬だけ顔を見合わせた。
「それはね」
紅葉が優しく言う。
「かなり近いと思うよ」
「……そう、なんですね」
こはるは小さく頷いた。
(……楽しい……)
⸻
2日目。自由行動。
「今日は歩くよ〜」
「了解〜」
坐禅のせいで足は重いが、空気は軽かった。
⸻
「……あ」
道中でまた、男子組と遭遇する。
「また会ったな(笑)」
「ほんと偶然だね」
「……」
やっぱり、まだ少しだけぎこちない。
(……このままじゃダメだね)
紅葉は小さく息を吐く。
⸻
「いたっ!」
紅葉が急に声を上げる。
「え?」
「ごめん。ちょっと足挫いたかも。こはる、ちょっと肩貸してもらえる?」
「あ、はい!」
「雪斗も来て」
「え、俺?」
「か弱い女子が頼んでるんだよ」
「お、おう……」
「あと、百武くん。ごめん、ちょっと荷物持ってきてくれる?」
「えっ!え、あ、はい!」
そのまま4人を連れて離れていく。
⸻
残されたのは——
渚と陽向、2人。
⸻
「……」
沈黙。
「……あのさ」
「……ごめん」
同時に声が重なる。
「……」
「……」
一瞬だけ見合って、
お互いクスッと笑う。
「……そっちからいいよ」
陽向が笑いながら言う。
「……」
渚は少しだけ視線を落として、
「……あの時」
「ちょっと言いすぎた…」
「ムキになってごめん」
「……いや、俺も悪い」
陽向が小さく息を吐く。
「……あんな言い方しちゃって」
⸻
沈黙が続く。
(私は⸻雪斗くんが大好きです!)
(直球ドストレート)
ふと、2人のやりとりを思い出す渚
(ドストレートに行けたら楽なのになぁ!)
「……ドストレート、か。」
渚がぼそっと呟き、顔を上げる。
「……私さ」
まっすぐに陽向の目を見ながら。
「陽向のことが好きなんだよね」
一瞬、空気が止まる。
「あの時さ……ちょっと、妬いてほしかったんだ」
「あんな冗談、いつもなら気にしないのに。」
「……あの時はほんとに私らしくなかった。」
「俺……」
陽向もまっすぐ渚を見る。
「あ〜大丈夫!今まで通り接してくれればそれでいいから!変なこと言ってごめんね!!」
「違う!」
「え?」
いつもとは違う、陽向の真面目な声。
真剣な眼差しにびっくりする渚
「あの日、百武に告白されたって聞いて……俺ちょっとムカついたんだ。」
「……え?」
「……だから、妬いたんだよ。俺。」
「………」
「行くわけないじゃん!陽向たちと行くに決まってるよ!っていう渚の言葉に期待して。あんな酷い言い方しちゃって。」
「俺も本当にごめん。」
「………それってつまり?」
「先に言わせてごめん。俺も渚のことが好き…です。」
ぷっ
「……じゃあ」
渚が言う。
「両想いだったってこと?」
「……だな」
「同じこと考えてたのに、あんなケンカしてたの?」
「そう言うこと…だね。」
ぷっ
2人で笑い合う
少しだけ間を置いて、
「……紅葉が気を利かせてくれたみたいだし、どうせなら……」
「……そうだな、少し一緒に回るか!」
「……うん!」
2人の距離が縮まる。
ゆっくりと手を取りながら、
2人はゆっくりと歩いていった。
⸻
少し離れた場所。
4人がその様子を見ていた。
「……よかったね」
紅葉が小さく呟く。
「まぁ、そうなると思ってたけど」
雪斗も肩をすくめる。
「……」
こはるは、じっと2人を見ていた。
(……なんだろう……)
胸の奥が、少しだけあたたかい。
(……ドキドキ、してる……?)
(……でも……)
(……なんか……)
小さく、息を吐く。
(……いいなぁ……)
「……グズっ」
「ん?」
隣で百武が泣いていた。
「2人とも良かったですね」
こはるは笑顔でポケットティッシュを差し出す。
⸻
その後。
仁王門の前で合流した6人。
「えっと……その……色々ありまして、付き合うことになりました」
「色々迷惑かけてごめん!」
少し照れた様子で報告する陽向とみんなに謝る渚。
「本当に幸せそうで⸻」
こはるの口を塞ぐ紅葉。
「それ以上言わなくていいから」
「んー?!んーーーー!?」
「……あれ?百武は?」
陽向が振り返る。
百武が1人、少し離れた場所で肩を落として歩いていた。