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清水寺
6人で並んで歩く帰り道。
「…なんか、変な感じするね」
「そりゃね(笑)渚はどこか行きたいところないの?」
陽向と渚は、自然と隣同士で歩いている。
その距離感は、昨日までとは明らかに違っていた。
こはるは、少し後ろからその様子を見ていた。
(嬉しい…)
でも——
(……なんだろう?)
⸻
「ねぇ」
紅葉が足を止め、陽向と渚の方を向いた。
「合流したばっかであれだけど」
「2人で回ってきたら?」
「え?」
陽向と渚が同時に反応する。
「せっかく付き合ったんだし」
「彼氏彼女で修学旅行なんて一生の思い出だよ」
「……でも」
渚が少し迷う。
「いいからいいから」
「こっちはこっちで回るし」
陽向が苦笑する。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「……うん」
2人は顔を見合わせて、小さく笑った。
「またあとで!」
そう言って、2人は人混みの中へ消えていった。
⸻
「……」
少しの沈黙。
百武がぽつりと呟く。
「……水瀬さんが幸せそうで、良かったよ。」
その声は、少しだけ掠れていた。
「……はい」
「すごく……嬉しそうでした」
こはるは小さく頷く。
「……きっと俺じゃあんな顔にできなかっただろうな。」
百武は少しだけ笑いながら肩を落としていた。
「百武くん」
そんな百武に、紅葉が声をかける。
「あっち見に行こう」
「え?」
「かわいそうだから、慰めてあげるよ。」
「……あー、うん?」
「せっかくの旅行なんだし、楽しまないと損でしょ。こんな美少女と回れるんだから感謝しなよ」
「お、おう……」
百武は一瞬だけ2人を見る。
「じゃ、朝倉くんと月城さん。またあとでな」
軽く手を上げた。
「それじゃまたねー」
紅葉はウインクをしながら、こはるの胸を指でっぽうで撃ち抜く仕草をし、百武と歩いて行った。
⸻
残されたのは——
こはると雪斗、2人。
「……どうする?」
雪斗が少し困ったように笑う。
「えっと……」
こはるもいきなりのことでどうしたら良いのか分からず、少し歩きながら周りを見回した。
「……あ」
風にゆらめく登りが目に入る。
「着物体験……」
「お、せっかくだし行ってみる?」
「はい!」
ぱっと表情が明るくなる。
⸻
着付け処。
「お待たせしました」
障子が開く。
「……」
雪斗が、目を見開いた。
淡い色の着物に身を包んだこはる。
背筋は自然と伸びていて、
動きに無駄がない。
「……似合いすぎでしょ」
ぽつりとこぼれる。
「……ありがとうございます」
少しだけ照れたように笑う。
「雪斗くんも似合ってますよ!」
「ありがとう(笑)」
少し照れる雪斗。
一挙一動を見て、あまりにも自然な動きをしているこはる。
「なんか動きがすごい慣れてる感じだけも、着付けとかやってたの?」
「……ん〜」
こはるは月ノ城での所作訓練を思い出し、自然と笑みが溢れた。
「少しだけ、教えてもらっただけです(笑)」
⸻
着物姿で外に出る2人。
石畳の道を、こはるは自然と裾を押さえ、歩き出す。
とても落ち着いている所作に、ついつい雪斗も目がいってしまう。
「……」
(……なんか、雰囲気が違うな)
徐々に人が増えていき、すれ違う人との距離が近づく。
「……あ」
こはるの肩がすれ違う人とぶつかり、一瞬雪斗の視界から姿が消える。
雪斗は慌てて身体ごと振り返った。
「大丈夫?」
「大丈夫ですけど…ちょっと人が多くて歩きにくいですね」
一瞬何かを考えた雪斗は…
「それじゃ、はぐれないように」
と言って、手を差し出した。
一瞬だけ迷って、
それでも、そっと雪斗の手に自分の手を重ねた。
「……はい!」
顔が熱い……
次は冷たい飲み物が売っているところに入ろう。
そう思ったこはるであった。
⸻
甘味処。
「わらび餅うまい!」
「こっちのかき氷も美味しいですよ」
「まじ?一口ちょうだい!」
パクっ
ドキッ
「つめたくてうまぁぁ!」
「そ、それはそうですよ!かき氷ですから!」
⸻
雑貨屋。
「俺さ、ずっと疑問に思ってることがあるんだ」
「…なんですか?」
「何で京都ってあぶらとり紙が有名なんだろうね。」
「確かに……何でなんでしょう(笑)」
(……楽しいし、なんだか落ち着くな)
(ずっと一緒にいたから……?)
(……なんでだろう)
隣を見る。
笑顔で色々な商品を見ている雪斗。
ピタッ。
少し遠くの商品をじっと眺めている。
(……?)
こはるが気になり、視線の先を見ようとしたところ。
「そろそろ行こうか!」
「あ、はい!」
「あ、やっぱりあぶらとり紙買ってくるからちょっと待ってて(笑)」
「わかりました(笑)」
⸻
着付け処
「やっと脱げた………楽しかったけど……やっぱり着物は疲れるね…」
「あはは〜、慣れないと疲れちゃいますよね(笑)」
「大丈夫だった?ほら……こはる体力ないじゃん?」
「ふふふ〜、私は少しだけ慣れていますから!」
胸を張って少しだけ偉そうに言うこはる。
自分の疲労感と比べても、確かにこはるは元気に見えた。
「まぁ、足はパンパンですけどね(笑)」
「疲れてるじゃん!」
笑いながら店を後にする2人。
店を出た瞬間…
「あ、こはるちょっと待って」
「はい?」
バッグから、一つの紙袋をこはるに渡す雪斗。
「これ、さっきのお店で。」
「え?」
「いや…なんかこはるに似てるなって思って……」
「いいんですか?」
雪斗は頷く。
袋を開けると、
チリン⸻
鈴が付いた薄いピンク色のうさぎのストラップ
「……ありがとうございます。そんなに私うさぎに似てます?」
「まぁ、小動物系…?」
「何ですかそれ(笑)」
2人で笑いながら、こはるはもう一度鈴を鳴らした。
チリン⸻
暖かい気持ちになりながら、そのストラップをカバンにくくりつけた。
⸻
夕方。
6人が再び合流する。
「おかえり〜」
紅葉が手を振る。
「どうだった?」
「ありがとうございます!控えめに言って普通に楽しかったわ!」
陽向が笑って答える。
隣で渚も、少し照れたように笑っていた。
「ありがとね。そっちはどうだった?」
「まぁ、それなりに?」
こはるを見る雪斗。
こはるも笑顔で頷いた。
「へぇ〜」
横目で2人を見た紅葉は、ふっと笑みをこぼした。
「も、紅葉さんと百武くんは?」
「え?紅葉たちも2人で回ってたんだ」
「俺は成瀬さんのおかげで楽しめたよ」
「私は渚に振られた百武を慰めてただけだけどね」
冗談混じりに紅葉が言うと。
「あ、えっと………」
「冗談」
「私もそこそこ楽しめたよ」
気まずそうに言葉を濁す渚を横目に、イタズラに笑いながら紅葉が言った。
⸻
夜。
「修学旅行と言えば、夜はみんなで枕投げでしょ!」
渚のその言葉が発端で、男子部屋に女子3人が遊びに来ていた。
とは言ったものの、流石に暴れるわけにもいかず、トランプやらスマホのゲームで遊んでいると……
「先生来るぞ!」
陽向が小声でみんなに知らせ、電気を消した。
ガラッ——
「ちゃんと寝ろよー」
入り口から軽く注意して去っていく先生。
「……行った?」
「行ったっぽいね」
「セーフ!」
笑いが広がる。
「流石に今明かりつけたらバレるよね」
「そうですね。このまま待って、もう少ししたら戻りましょうか。」
紅葉とこはるがいい、みんなも頷いた。
それからはしばらく小声で話し合ったり、グループチャットでやり取りをし、小さな笑い声があちこちか聞こえていた。
⸻
朝。
「……ん」
(いつの間にか寝ちゃってたんだ……)
そう思いながら目を開けると……
すぐ目の前に——
雪斗の顔。
「……っ!?」
一気に目が覚める。
距離が近い。
(……え、なんで!?)
周りを見渡すと……
6人がバラバラになって眠っている。
心臓がうるさい。
(どうしよう!!)
雪斗たちを起こさないようにゆっくりと紅葉と渚の元へ行き、2人を起こすこはる。
「……え、やば。普通に寝てた」
「これはバレたらやばいかもね」
時計を見るとまだ5時過ぎ。
物音を立てぬように部屋を後にする3人であった。
⸻
帰りの新幹線。
「流石にねむい……」
盛り上がっている陽向達の席から立ち、こはるの隣に雪斗が来た。
「あはは〜、昨日遅くまで起きてましたもんね(笑)」
隣同士。
「……」
少しの沈黙。
「こはるは向こういかなくていいの?」
「……はい、実は私も眠くて」
「むしろあいつら元気すぎでしょ」
少し雑談をしたのち、自然と沈黙する2人。
しばらくして——
こつん
頭が触れる。
2人は気付かずに、そのまま寄りかかっていた。
⸻
「……あ」
それに気づく渚。
「見てみて」
そう言って陽向と紅葉の視線を誘導する。
「またいちゃついてるよ〜(笑)」
「まぁ、人のこと言えないけどね」
「な、何も言えねぇ。紅葉さん突っ込みの鋭さ増してきてませんかね……?」
くすくす笑い合いながら2人を見る3人。
「あ……」
紅葉がスマホを取り出し…。
パシャッ
写真を撮る。
「……いい顔」
チリン⸻
小さな鈴の音
賑やかな新幹線の中に
小さく響いていた。
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