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#ローファンタジー
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28-1◆女王が書き換える規則(ルール)◆
昼休みを迎える。
久条亜里沙は柴田、斎藤、結城たちElysionの幹部連中を連れて、嬉しそうに祥雲庵へと向かっていった。
その背中を見送りながら俺は一人、コンビニのパンを口に運ぶ。
そこへ山中がやってきた。
「おう!一緒に昼飯、食おうぜ」
彼の目は、ゴシップ記者のように輝いている。
「おい、音無。お前、気づいてるか?最近、うちの学校の女子の制服の着こなし。
着崩し方がなんか、みんな、同じに見えねえ?」
俺は無言で頷く。 俺のスカウターもその「流行」のデータをすでに観測済みだ。
山中は興奮気味に続けた。
「あれ、久条さんが仕掛けたらしいぜ」
「夏休み前まではさ、三年生にイケてる女子グループがいて、その人たちがファッションリーダーだったんだよ。あいつらは、校則の範囲内で、ギリギリのおしゃれをしてた」
俺は問い返す。
「今は違うのか」
「全然違う!二学期から久条さんがインスタで、自分の着こなしを上げ始めたんだ。あれ、明らかに校則違反のレベルだったんだぜ?リボンもスカート丈も。なのに」
山中は、そこで一旦言葉を切る。
俺は、彼の言いたいことを正確に予測し、そして核心を突く質問を投げかけた。
「教師は何も言わないのか」
その言葉に、山中は待ってましたと、ばかりに声を潜めた。
「それがヤバいんだよ!最初は、注意してたらしいんだけど、久条さんを真似する女子が多すぎて、先生たちも、何も言えなくなったらしい。今じゃ、あの『久条スタイル』が新しい校則みたいになってる。あいつ、学園のルールそのものを書き換えたんだぜ。もはや制服じゃなくなっていくよな」
(なるほどな)
俺は山中のその貴重な情報を、脳にインプットする。
彼女の武器は、ただの同調圧力ではない。
「規則(ルール)そのものを、自分の都合のいいように捻じ曲げる力。 それこそが、久条 亜里沙の本当の恐ろしさなんだな。」
俺は山中に同調する。
「今じゃ、あの三年生のイケてるグループですら『亜里沙さん』とか言って、メイクを教えてもらいに行ってるらしいぜ」
続けて、情報を提供してくれる山中。
「だが、ここからが、久条さんの本当のエグいところだ。最近、みんな久条さんの真似をし始めたら、彼女、ピタッとその着こなし、やめちまったんだよ。そして、また誰も真似できない新しいスタイルを始めてる。あいつ、自分が作った流行ですら、古くなったら捨てるんだ。常に頂点に立つためにな」
山中はそこで声を一段と潜め、俺にだけ聞こえるように囁いた。
「それにさ、音無。あくまで噂だけどよ。久条さん、各学年から選ばれたヤバいお嬢様だけが集まる、秘密のサロンみたいなのを仕切ってるらしいぜ。教師ですら手を出せない、治外法権の”会”が、あるって話だ」
俺は脳内のウィンドウを開く。
奏:「面白いデータだ。久条亜里沙は、教室の空気だけじゃない。学園全体の『規則』すら支配する」
ミラー:「そうだ。彼女の武器は『常識』の上書きだ。お前はどうする?その巨大な流れに一人で逆らうのか?」
俺はただ静かにパンの最後の一口を飲み込んだ。
28-2◆王の一言、そして女王の勅命◆
昼休みを終えるチャイムが鳴り響く。 生徒たちが教室へと戻ってくる。
その中に久条亜里沙たちのグループの姿があった。
昼食のため、祥雲庵へと向かった時とは明らかに雰囲気が違う。
久条の表情は、いつも通り完璧な笑顔だ。
しかしその隣に立つ、結城莉奈、柴田隼人、斎藤律。
彼ら三人の顔は一様に暗かった。
まるで死刑宣告でも、受けたかのように。
奏:「ミラー。結城たちの様子がおかしい。何かあったはずだ」
ミラー:「なら、観ればいいだろう」
俺は気になって、彼らにカーストスカウターの焦点を合わせた。
機能C:思考残響観測(メモリー・リーディング)を起動する。
俺の脳内に、先ほどの祥雲庵での会話の断片が流れ込んできた。
亜里沙の声:「いいこと?Elysionは学力でもトップレベルであるべきよ。次の中間試験、みっともない結果を出したら、どうなるか分かっているわね?」
奏:「なるほどな。女王からの勅命か」
ミラー:「それで暗いということは、あいつら3人は、やはり馬鹿なのか?」
ミラーのその言葉。
そうだ。俺はそれすらもスカウターで確認できる。
俺はElysionの三人の騎士たちへと、意識を集中させる。
そして、新しい機能「キャリア・ディグ」を起動した。 彼らの表面的な感情ではない。
その奥底にある「ステータス」そのものを。
【Target: 柴田 隼人】
【学力レベル:E(赤点常習犯)】
【Target: 斎藤 律】
【学力レベル:C(平均以下)】
【Target: 結城 莉奈】
【学力レベル:C-(見栄で維持)】
俺は全てを理解した。
奏:「原因が分かった。奴らの弱点は『学力』だ」
ミラー:「だが、なぜ女王は今になって、急にそんな勅命を?」
奏:「そうだな。今まで、そんなこと言ってなかったはずだ」
俺は、次に久条亜里沙本人へと、スキャン対象を切り替えた。
彼女の思考の残響からその原因を探る。
そして俺はその答えを見つけた。
天宮の声:「みんな勉強も頑張って、同じ大学に行けたら最高だね」
たったその一言。 王である天宮が、何気なく口にしたその言葉。
それが久条亜里沙の心に火をつけたのだ。
彼女にとって王の言葉は絶対の神託。
そしてその神託を実現することこそが彼女の使命。
俺は脳内のウィンドウを開く。
奏:「面白いことが分かったよ。ミラー」
ミラー:「なんだ?なんだ?」
奏:「王の何気ない一言が女王の心に火をつけた。そして今三人の幹部たちが絶望している」
ミラー:「はっ。滑稽だな。そんな小さなことで?」
奏:「ああ。そして俺はやり方次第で、学力という弱点を利用できそうな気がする」
俺の視線の先。
教室に戻ってきた天宮 蓮司が、他のクラスメイトたちに囲まれ、楽しそうに談笑していた。
彼は自分のたった一言が、この教室に新しい戦争の火種を生んだことなど知る由もない。
彼はただそこにいるだけで、世界のルールを書き換えていく。
(天宮蓮司が、このゲームのルールそのものなのだと)
俺は静かにその事実を再認識していた。
そしてそのルールをハッキングするための計画を練り始めていた。
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